自分と相手の心を守る護“心”術?お笑い講師が本気でつくった「子どものコミュ力を高める本」

お笑いの技術は自分の心も相手の心も守る

自分も相手も楽しい気分になれる会話で大切なことは、相手のことはもちろん、自分のことも知る必要があると芝山さんは話します。

相手を不快にしない「褒めいじり」

「“いじる”ということをコミュニケーションって思っている子たちも多いと思うんですよね。でも受け手側からするといじめられているって解釈する子もいる。テレビで芸人さんがいじられているのとかを見て、真似したい気持ちもわかる。でもその裏側ではきちんと挨拶がされていたり、飲み会とかで相手を知る機会を設けたり、いじってもらっていいんでって話をした上でやっているんだよっていうことを、ちゃんと教えないといけない」。

芸人のいじりを真似したいなら「褒めいじり」が良いと芝山さん。

「もしいじりたいんやったら『お前んちおっきいもんな、東京ドームくらいあるよな』『そこまではないよ』くらいな感じの、“褒めるいじり方”だったら相手を不快にしにくい。しかもいじる相手というのは、その子のことを聞かれたら、好きなものや嫌いなものを10個ずつくらい言えるような関係性が必要。その子がどんなことを言われたら嫌なのか、逆にここの部分は言われても大丈夫ということを知っていることが大切なんです」。

心を守るためにまず「自分との会話」を

本書には冒頭に、まずは自分のことを知るための「会話タイプ診断」を収録。これを「うまく使ってほしい」と芝山さんは言います。


まずは自分や子どもの会話タイプを診断してみて

「コミュニケーションっていうのは相手とだけではなくて、自分との会話もすごく大事。『今日はこんなことがあった、でもあれは嫌やったな』みたいな感じの、自分との会話。これをうまくできていない子っていうのは結構いると思うんです。『あの場面モヤモヤしたな、何が嫌やったのかな?私のことを少しバカにした言い方だったから嫌だったのかな?』『じゃあ私ってこういうことを言われるのが嫌なのか』っていうところまで落とし込む。そうすれば、『私』っていう心の輪郭が見えてくると思うんですよね」。

その輪郭が見えてきたら、そういう人とはできる限り会わないとか、遊ばないという選択が取れていくと芝山さん。何が嫌なのか分からないまま、相手を不快にさせないことだけを考えていると、自分が傷つく場面が増えていくと話します。

「(本に掲載した)会話タイプ診断の結果も、『ここは違うな』『私はこんなん言わない』と思うのでも良いんですよ。違うと感じるということは、自分を見つけているってことやから。自分のタイプが果たして結果通りなのかって検証したりして、うまいこと使って自分っていうものを探してもらえたら、よりコミュニケーションがうまく回っていくんじゃないかなと思います」。


診断結果は当たっていたか考えるだけでもコミュ力アップのきっかけに

お笑いを実践するのは無理と思う人には?

「自分に合う」選択肢を増やせばOK

本書に書かれたお笑いの技術は自分の心を守る護身術や合気道の「形(かた)」のようなものだという芝山さん。自分との会話を続けて、自分に合う会話の選択肢を増やしてほしいと話します。

「お笑いの技術といっても絶対人を笑わせていけ、とかじゃないんですよ。無理しても空回るから、自分が楽しむっていうマインドだけでも良い。TikTokのコメント欄とかでも『面白さは才能だから自分には無理』みたいに諦めている人って結構多くて。確かにある程度の領域を超えてくるとセンスは必要になってくるけど、ちょっと楽しいくらいのレベルなら努力でなれると思うんですよね」。

悩んでいるときに本書に書かれたことを実践するのは、とても勇気がいることだと理解を示す芝山さん。だからこそ失敗してもさほど恥ずかしくないような、家族や仲の良い友達の前で使ってみることをおすすめするそう。

「実際に芸人も後輩との飲みの席とかでトークを試すことが良くあるんですよ。ああ、これ舞台でいけそうやなとか、これはすべるとか(笑)。この本で紹介した技術をまずそういう仲の良い相手や家族で試してみて、自分に合う方法にブラッシュアップしてほしい。もっと優しい表現がいいとか、もう少しリアクションを大袈裟ではなくしたいとかね」


本にある返し事例を元に、自分が実践しやすい返しに微調整してみて

成長するのは自分に矢印が向いている時

自分にしっくりくる自然な会話の返し方やリアクションを見つけるためには、やはり自分との対話が重要という芝山さん。これはすぐに答えが出るものでもなく、継続が大切だといいます。

「芸人さんでも矢印(自分の見ている方向)が外を向いている時って成長しないですよ。例えば憧れの芸人さんみたいになりたくて、その人のキャラを一生懸命真似してみるけどあんまりウケないって相談されたら、僕はその人のそれまでの人生を聞くんです。『学生時代は天然キャラをいじられて笑いを取っていました。でも先輩みたいにちょっとやんちゃそうで悪そうな芸人になりたいんです』って話だったら、君の憧れている気持ちはわかる。だけど一度君自身に矢印を向けて、君自身を生かそう、ってネタを変えてみると、やっぱりウケるんですよね」。

「会話タイプ診断をしたときに、一瞬だけでもポンって矢印が自分に向くと思う」と芝山さん。自分の心を守る会話術をブラッシュアップするためには、その回数を増やすことがすごく大事だと話します。

失敗を話の種にできれば「失敗ではなくなる」

芝山さんが、芸人の技術で一番大事だと思っているのは「すべった話をして笑いを取る」いわゆる自虐ネタという技術なのだそう。

「失敗したことを『あの時あんなことせんかったら』ってずっと思っていたら、それはずっと“失敗”なんですけど、それを話の種に自虐して笑いにする。それができなくても失敗を話題にするだけでも良い。『この間こんな失敗して、最悪じゃない!?』って話ができた時点で、“失敗したからこんな話題で会話ができた”って肯定できる。そうしたら失敗ってもう成功だよねっていう」。

そんな良いサイクルが生まれると、次に何かにチャレンジするときの意欲につながると芝山さん。もし失敗しても話の種になるかもしれないと思えれば、必要以上に怖がることもなく、チャレンジできると話します。

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