【闘病】体重25kg増の爆発的な食欲の正体は「クッシング病」だった

【闘病】体重25kg増の爆発的な食欲の正体は「クッシング病」だった

「クッシング病」という病気を知っていますか? 名前が似ている「クッシング症候群」とは異なり、こちらは指定難病です。大学生のときにクッシング病と診断された小笠原妃奈子さんに、聞き慣れないこの病気についての闘病体験を話してもらいました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年2月取材。

≫【画像】小笠原さんの現在の様子や闘病中の写真

体験者プロフィール:
小笠原 妃奈子

1997年生まれ、埼玉県在住。家族構成は、父、母、2匹のポメラニアン。診断時は大学3年生。2018年9月に確定診断、同年11月に手術を受ける。1年8カ月の服薬を終え、現在は年に1回の血液検査で経過観察中。体調には何ら問題なくアルバイトに勤しんでいる。

記事監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

治療しなかった場合の5年存率50%の「クッシング病」

編集部

まず初めに、「クッシング病」とはどういった疾患なのか教えていただけますでしょうか?

小笠原さん

難病に指定されている、ホルモン代謝異常の疾患です。日本では、およそ100万人に1人の割合で発症するとされていて、特に中年の女性に多いと言われています。脳内でホルモン分泌の調節を中心的に行っている脳下垂体というところに腫瘍ができることによって生じます。その腫瘍が副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を自律的かつ過剰に分泌し、結果的にコルチゾールという副腎皮質ホルモンが持続的かつ過剰に分泌されてしまうことでさまざまな症状が現れます。

編集部

具体的にどのような症状が現れるのでしょうか?

小笠原さん

急激な体重増加、中心性肥満、ムーンフェイス(満月様顔貌)、ニキビ、バッファローハンプ(野牛肩)、免疫力低下、月経不順、筋萎縮、血圧上昇などです。これらの症状は直接的に命に関わることは少ないものの、二次的に高血圧や糖尿病、肝硬変などの合併症になることで致命的なダメージを受ける可能性があります。また、コルチゾールは「ストレスホルモン」とも言われていて、過剰分泌により、うつ傾向になることもあるそうです。治療しなかった場合の5年生存率は50%とも言われています。ちなみに、「クッシング症候群」という疾患もありますが、それは副腎に腫瘍ができることで同様の症状が現れますが、難病には指定されていません。

編集部

病気が判明した経緯について教えてください。

小笠原さん

病院で診てもらうきっかけとなった症状は脚のむくみです。大学3年生のときのある朝、起きたら片脚が象の脚のようにむくんでいて、歩くだけでゼリーのようにプルンプルンと足の甲が揺れていたのです。当時は痩せるためにランニングをしていて、その日も走るとむくみは一気にひいたものの、翌朝にはまたむくみが戻っていたので地元の内科を受診しました。

編集部

脚のむくみが現れる前に、別の自覚症状などはあったのでしょうか?

小笠原さん

振り返ってみると、高校2年生から体の異変はありました。でも、その異変の多くもクッシング病とわかってから「あれも病気の影響だったんだ」と気づいた感じだったので、自覚症状があったかと言われると、微妙なところです。

さまざまな症状は受験期によるストレスが原因だと思っていた

編集部

どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?

小笠原さん

内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術という、鼻の奥の骨に穴を開けてそこから腫瘍を取り出す手術を行うと言われました。腫瘍摘出後の残存した下垂体はACTHの分泌機能が低下しているため、薬の服用でそのホルモンを補いながら機能回復を図っていくという説明を受けました。

編集部

病気が判明したときの心境について教えてください。

小笠原さん

当時、私は獣医大学に通っていてちょうど内分泌代謝学の講義を受けていたところで、「自分の脚のむくみや体重増加はもしかしてホルモン系の病気なのでは?」と思いながら受診をしました。犬ではクッシング病は比較的多い病気(発症率は人間の1000倍以上)のため、私にとっては聞き慣れた病名でした。そんなこともあってクッシング病と診断されても冷静でいることができましたが、後々調べたら、人間のクッシング病は稀なことで、なおかつ難病であると知り、驚きました。

編集部

発症後、生活にどのような変化がありましたか?

小笠原さん

おそらく発症したのは高校2年生の頃だと思いますが、食欲が爆発的に増えて(3~4人前の鍋を毎晩1人で食べてしまえるぐらい)、いつの間にか生理がこなくなっていました。顔もニキビだらけでまん丸になって、友達と写真を撮ることがだんだん嫌になっていきました。特に印象が残っているのは、たくさん食べてお腹がはち切れそうでも、頭が「まだ食べたい」と思う感覚があったことです。頭と胃の連携がまったく取れていない感じで、満腹感も空腹感も感じなくなっていました。しかし症状が出始めたのが大学受験期と重なったことで、「ストレスで食欲が止まらないだけかな」「生理が来ないのも楽だし、病院に行く時間ももったいない」と思ってしまい、病院に行くことを後回しにしていました。受験を終えてから、無月経のため婦人科を受診したものの、調べたのは女性ホルモンのみだったので、クッシング病とはわからず通常の月経不順の治療としてピルなどを服用していただけでした。

編集部

症状に変化はなかったのでしょうか?

小笠原さん

大学生になってからは特に、息が上がりやすくなり、身体が1日中だるくて大学の授業や実習がしんどくてたまりませんでした。「なんでみんなは元気なんだろう、私って全然体力がないな」と思いながら授業を受け、できるだけ早く家に帰ることだけを考えていた大学生生活でした。また、夜間にトイレで起きることが増え、まとまった睡眠がとれない日々も続き、精神的な浮き沈みやイライラも増えていきました。今では噓のようですが、友人の喜びや幸せがすべて妬ましいと感じるほど精神的に追い込まれていたときもありました。結局クッシング病とわかるまで25kgくらい体重が増え、急激な体重増加に皮膚が耐えられず、肉割れ線が唯一の痕跡として今も残っています。いくつもの変化が起きていて、この気づきにくさがクッシング病の難点だなと改めて感じます。

編集部

闘病に向き合う上で心の支えになっているものを教えてください。

小笠原さん

大きな支えとなったのは2匹の犬たちです。私がだるくてしんどい時もストレスでいっぱいいっぱいな時も、犬たちがいつも癒してくれました。もちろん両親も献身的に支えてくれました。ただ、心配をかけないよう振る舞っていた部分もありました。あとは、髪を緑や青など派手な色に染めていました。個人的に髪色が明るいと気分も明るくなるし、体型的に着られる服がなくなっていく中で、髪だけは唯一好きなように自分を表せるパーツだなと感じていたからです。その中でも1番の支えとなったのは同じ病気の方々との出会いです。

関連記事: