雪舟の国宝6件すべて公開。なのに雪舟展ではない『特別展 雪舟伝説―「画聖」の誕生―』開幕


雪舟筆《重要文化財 四季山水図》室町時代(15世紀)東京国立博物館蔵 通期展示

皆さんは「雪舟(せっしゅう)」に対してどんなイメージがありますか? 私の中学時代の友人は、人ではなく舟の名前だと思い「ゆきふね」と読んでいましたが、皆さんはいかがでしょうか。

雪舟は日本美術史上もっとも重要な画家のひとりに数えられ、6件もの作品が国宝に指定されています。1人の画家としては最多となる指定件数で、突出して高く評価されていることがわかります。


雪舟筆《国宝 天橋立図》室町時代(16世紀)京都国立博物館蔵 通期展示

今現在の高い評価の背景には、本人が名品を残したのみならず、後世へのあらゆる影響がありました。雪舟を起点とした日本の美術や文化の大きな流れをたどるのが、本展です。

いわゆる「雪舟展」ではなく、雪舟の影響に着目した本展。国宝6件が揃い踏みするのに「雪舟展ではありません」とは何と贅沢な……!と慄いてしまいますが、巡回なし・京都限定の本展の見どころをチェックしていきましょう。

雪舟ってどんな画家?


狩野探幽筆《探幽縮図 雪舟像》江戸時代 寛文2年(1662) 京都国立博物館蔵 通期展示

雪舟は1420年に生まれ、室町時代に活躍した画家です。幼い頃から禅僧として修行を積みながら、室町幕府御用絵師であった周文に画を学びました。

1467年には遣明使節の一行に加わり明(現在の中国)に渡ります。本場で宋元画を学び、3年の在明ののちに帰国しました。


展示風景

本展では雪舟の作品が多数展示され、特に見応えがあるのはやはり国宝の6件でしょうか。展示ケースを隔てているのに、霊圧のようなものを感じました。

雪舟らしさが光る《秋冬山水図》、唯一の花鳥画とされる《四季花鳥図屏風》、現地での写生をもとに描いた《天橋立図》など、いずれも高く評価されるだけのパワーがあります。


雪舟筆《重要文化財 四季花鳥図屏風》室町時代(15世紀)京都国立博物館蔵 通期展示

私個人の感覚ですが、日本の美術は雪舟の前と後で大きくステージが変わったと思います。深い奥行きの描き方や、実景を独自に構成しなおした理想美の表現は、日本美術を何ステップも先に推し進めた感があります。

雪舟以降の画家が、「雪舟先生みたいに描きたい!」と筆を握るのも当然だと思います。そういうわけで、後世の画家たちによって雪舟の画風は脈々と受け継がれてきました。

雪舟のフォロワーたちと「雪舟受容」


雲谷等顔筆《重要文化財 山水図襖》(14面のうち4面)桃山時(16〜17世紀)京都 黄梅院蔵(通期展示)

雪舟のフォロワーとしてまず名前が挙がるのは、雲谷等顔と長谷川等伯です。いずれも桃山時代の画家で、雪舟に師事したわけではありません。しかし後継者を名乗り、雪舟らしさを受け継いだ作品を数多く制作しました。

雲谷等顔は雲谷庵(雪舟のアトリエ)と《山水長巻》を拝領し、雪舟流の後継者として活躍。「正当な後継者ですが何か?」(※本展チラシより引用)という風情だったようです。


長谷川等伯筆《重要文化財 山水図襖》(16面のうち8面)桃山時代 慶長4年(1599) 京都 隣華院蔵 通期展示

一方、長谷川等伯は「雪舟から数えて五代目」と自ら書き記し、後継者を名乗っていました。……これ凄くないですか? 自称しちゃっていいんだ? と会場で思わず笑いがこぼれました。

何で「五代目」にしたのかも気になりますし、冗談なのか本気なのか等伯に話を聞きたくなってしまいます。


展示風景

本展では、狩野探幽や尾形光琳、伊藤若冲、円山応挙なども影響関係があるとして紹介されます。これまた日本美術史においてたいへん重要な人々です。

雪舟の作品によく似たオマージュから、共通点はありつつ画家独自のアレンジが強いものまで、本展ではさまざまな作品が紹介されています。

さらに、雪舟は画家たちに憧れられるだけではありませんでした。「みんな」の雪舟へと、世の中に広く受け入れられていったのです。


勝川春草《初宮参図巻》江戸時代(18世紀)似鳥美術館蔵 通期展示

それを端的に示すのが、勝川春草の春画巻《初宮参図巻》です。本作には、若い娘の見合い、婚礼、夫婦の営み、出産、初宮参りが描かれています。

作中、高位の武家と思われる屋敷の寝室には、なんと雪舟の山水画がかけられています。高い身分を表すシンボルとして、雪舟の画が機能した様子がうかがえます。

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