「2016年4月に行われた政府調査によると、ダブルケアを行う人は全国で約25万人 。ただし、この調査は食事や排せつ補助などの身体的な介護をおもに行う方を対象としたものです。そのため、看病のための通院や介護保険や介護施設の事務手続きといった負担は含まれていません。身体的な介護が必要になった場合、介護保険を活用すればデイサービスやホームヘルパーさんに頼むことができます。しかし、それ以外は原則的に自分たちで行わないといけないのです」
そう指摘するのは、ダブルケアサポート理事の植木美子さん。植木さん自身も過去にダブルケアを経験した当事者のひとりだ。
例えば、親や義父母が入院している病院に行くにも、小さい子どもを連れていくのは大変だ。子どもから風邪やインフルエンザなどの病気に感染する可能性があるため、抵抗力の落ちた高齢者が多い施設では、子ども連れでの面会は断られることが多い。子どもの預け先や時間調整が必要になる。
「また幼稚園とデイサービスへの送り出しやお迎えが重なることなども、ダブルケアラーさんの負担になっています」(植木さん 以下同)
また、支援を行う自治体の行政にも問題が見られるという。
「自治体に相談に行くと、介護と育児の窓口は別々で情報共有がされていないことが多く、窓口ごとに同じ説明を繰り返すこともあります」
このような縦割り行政や支援制度が、ダブルケアを行う人の負担を増やしているという。
●ダブルケアが始まると、どうなるの?
ダブルケアを行うようになると、具体的にどのような状況になるのか? 植木さんが運営する団体(芹が谷コミュニティてとてと)が運営するダブルケアラー(ダブルケア当事者)さんの交流の場である「お喋りカフェ」で2つの例を聞いた。
「ひとつは、親の介護がだんだんと進行したケースです。Aさんがダブルケアを行うようになった当時、子どもは1歳。義父に認知症が出始め、だんだんと症状が進んでいきました。その後Aさんはふたりのお子さんを出産し、育児をしながら自宅で介護を行いました。義父の認知症が進行すると介護老人保健施設へ入所、さらに特別養護老人ホームへ転院しました」
そしてもうひとつは、急にダブルケアが始まったケースだ。
「Bさんは実母が脳いっ血で倒れ、急に身体介護が必要になりました。当時、6歳、8歳、10歳の子どもがいました。病院でリハビリを行った後、在宅介護を始め、その後デイサービスを利用するようになりました」
●ダブルケアを経験して知った、意外な負担
デイケアや介護施設を利用していると、親の衣類や日用品の補充を急に頼まれることがある。認知症などで本人に確認できない状態だと、小さい子どもを連れて探すことも大変なのだとか。
「『下着はこのメーカーのものがいい』『靴下は綿の5本指じゃないとイヤ』など、高齢者はこだわりの強い人が多いです。『お父さんが買いにいくなら、多分この店だろう』『インターネットは使わないだろうな』などと、想像力を働かせながら、慌てて探します」
このとき育児と介護を両立して大変なことを説明し、少し待ってもらうことはしないのだろうか?
「日本はとくに『介護は家族がするもの』という風潮が強いようです。施設やホームヘルパーにお願いして代わりに介護をしてもらっているという気持ちがあり、なかなか言いづらい状況があると思います。『下着の補充を持ってきてください』と言われたら、『早く持って行かなきゃ』という気持ちになる人が多いと思います」
さまざまな負担が予想されるダブルケア。万が一に備え、自分にもダブルケアの可能性があることをまずは心の片隅に留めておこう。
(ノオト+石水典子)