梅雨から夏の高温多湿の時期は細菌が増えやすく、冬から春先はノロウイルスが増えやすくなるため、食中毒は一年を通して多くおきます。食中毒になると腹痛や下痢、発熱をおこすだけでなく、場合によっては後遺症が残ったり、死亡したりするケースもあります。
まずは食中毒の原因を知って“おこさない”こと、おきてしまった後にはきちんと処理をして“広げない”ことが大切です。また、災害時にもきちんと対応できるよう、食中毒のための備蓄もしておきましょう。
食材はしっかりと加熱・洗浄
食中毒といっても、サルモネラ属菌やO157などの細菌によるもの、ノロウイルスやE型肝炎ウイルスなどのウイルスによるもの、アニサキスなどの寄生虫によるもの、フグやキノコ、野草などの自然毒によるもの、薬品などの化学物質によるものがあります。
このうち、細菌やウイルス、寄生虫によるものは、食材をしっかりと加熱をすることで食中毒の多くを防ぐことができます。
肉
豚肉・鶏肉
豚肉や鶏肉はしっかり火を通す必要があると、多くの方が認識されているかと思いますが、調理法によっては注意が必要です。
最近は低温調理と呼ばれる、低温で長時間かけて食材を加熱する調理法がありますが、加熱が十分でないと食中毒をおこすことがあります。調理をするときには“食材の中心温度”を75℃で1分間や、63℃で30分間を保つなどの食品衛生法に定められた規定を守り、加熱不足とならないようにしましょう。
また、中心が生のササミやレバーの焼き鳥を出す店や、地域によって鶏肉を刺身として生で食べる習慣があるかと思いますが、たとえ新鮮なものであっても加熱不足の鶏肉は食中毒をおこす可能性が高くなります。ニワトリは飼育されている時点で食中毒の原因となるカンピロバクター菌をもっていますので、お店の人から「新鮮だから大丈夫」「この地鶏は大丈夫」と言われても安全であるとは言えません。
なお、最近はジビエといわれ鹿肉や猪肉、熊肉などをよく食べるようになりましたが、これらは野生動物であることから、E型肝炎や寄生虫の感染リスクがとても高くなります。豚肉、鶏肉と同じように中心までしっかりと加熱することが大切です。
牛肉
牛肉の場合は、食中毒の原因となるサルモネラ属菌やO157などの腸管出血性大腸菌は肉の表面についているため、かたまりの肉であれば中心がレアでも食べることができます。
ただし、レバーなどの内臓は内部に菌が入りこみますので、豚肉や鶏肉と同じように中心までしっかりと加熱する必要があります。また、ひき肉のほか、筋きりや調味のため刃や針状のものを刺した肉は、内部に細菌が入りこみます。このような食材には「牛肉加工品」や「食肉加工品」と書かれていますので、表示があるものは中心までしっかりと加熱をする必要があります。
魚
魚を加熱する場合でも気をつけたいのが、ヒスタミンによる食中毒です。マグロ、カジキ、カツオ、サバ、イワシ、サンマ、ブリ、アジといった赤身の魚が原因となることがあります。魚を常温においておくと、ヒスチジンという物質が菌によって分解され、ヒスタミンが生まれます。魚とともにヒスタミンを多く食べてしまうと、舌がピリピリする、顔が赤くなるほか、じんましん、頭痛、嘔吐、下痢などをおこすことがあります。
ヒスタミンは加熱しても分解されないため、調理前の魚の取り扱いが大切です。ヒスタミンを作る菌が多くあるエラや内臓をなるべく早く取り除き、常温に置かず冷蔵庫で保存するようにします。また、香辛料を使っていない料理で、魚を食べた時に舌がピリピリすることがあれば食べるのをやめましょう。
魚を生で食べる場合
ヒスタミンは加熱しても分解されないため、調理前の魚の取り扱いが大切です。ヒスタミンを作る菌が多くあるエラや内臓をなるべく早く取り除き、常温に置かず冷蔵庫で保存するようにします。また、香辛料を使っていない料理で、魚を食べた時に舌がピリピリすることがあれば食べるのをやめましょう。
魚を生で食べる場合
魚を生で食べるときに鮮度に注意することは当然ですが、自分で魚をさばいたり、貝などを生食する場合には気をつけてほしいポイントが2つあります。
1つ目は腸炎ビブリオ菌で、食中毒になると激しい腹痛、下痢、発熱、嘔吐をおこす場合があります。
腸炎ビブリオ菌はエラや消化器官に多くあり、常温で急速に増殖します。そのため、魚はすぐに冷蔵庫に入れるようにします。また、真水に弱いという特徴がありますので、調理をするときにはエラと内臓を取り除いた後、真水で魚全体をしっかり洗いぬめりを洗い流します。包丁やまな板、手についた菌が食材につくこともありますので、内臓とエラを取った後に一度すべてを洗い流してから、魚を三枚におろしたり、切り分けたりするようにしましょう。また、貝類も生で食べるときには真水で洗うようにします。
2つ目はアニサキス症で、魚に寄生するアニサキスの幼虫はサバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどにおり、食べると幼虫が胃や腸にかみつき、みぞおちの激しい痛み、嘔吐、腹痛をおこします。また、人によってはアレルギーをおこすこともあります。
アニサキスの幼虫は宿主である魚が死ぬと、内臓から筋肉へと移動していきますので、魚を丸ごと買う場合には、刺身用と書かれた新鮮なものを購入し、なるべく早く内臓を取り除きます。そして、腹膜に長さ2~3cm、太さ0.5~1mmで白い糸状のアニサキスの幼虫がいないかを目でよく見て確認し、もしいれば取り除きます。なお、アニサキスの幼虫は酢漬けや塩漬けでは死滅しませんので注意が必要です。
また、サケにはアニサキス以外の寄生虫がおり、生食をするためには-20℃以下で24時間以上冷凍をする必要があります。家庭用の冷蔵庫は-20℃以下にはなりませんので、生食をする場合には必ず刺身用と書かれたものを買うようにしましょう。
野菜
キノコや野草には見た目が似ているものも多いため、間違って有毒なものを食べてしまうことがあります。ニラと有毒のスイセンを間違えたり、ウルイとバイケイソウ、行者ニンニクとイヌサフランを間違えたりして食べ、死亡することもあります。また、キノコも見分けにくいものが多くありますので、十分に知識のある人が、確実に食用であると判断したもの以外は食べないようにしましょう。
有毒な植物以外に、市販されている野菜でも食中毒をおこすことがあります。野菜にサルモネラ属菌やO157のような腸管出血性大腸菌がつくことがあり、サラダや和え物などとして生食をすることで食中毒をおこすことがあります。また、浅漬けなど塩分の低い漬物で菌が繁殖し、食中毒をおこすこともあります。
いずれにせよ、野菜を調理するときに、水道水を流しながらしっかりと洗うことで防ぐことができます。また、塩分の低い漬物やカットされた野菜は冷蔵庫で保存して、早めに食べきるようにしましょう。
菌やウイルスをつけない
手洗い、調理器具の洗浄
調理前には念入りに手洗いをするようにします。手を洗う時には手のひらだけでなく、手の甲、指の間、爪の先、手首までしっかり洗いましょう。また、生の肉や魚、卵をさわる前後、トイレ行った後、鼻をかんだ後にも手を洗うようにします。
包丁やまな板から菌やウイルスがつくこともありますので、包丁は都度洗い、まな板は熱湯や漂白剤で殺菌するのがよいのですが、調理の途中でまな板を殺菌するのは大変です。野菜や生ものから切り分け、その後に加熱をする肉や魚を切るようにしたり、まな板を肉、魚、野菜でそれぞれ分けたりするとよいでしょう。
また、肉や魚を切った後に調理器具を洗う時には、水しぶきが野菜など生で食べるものにかからないように気をつけます。使用後のふきんも熱湯や漂白剤で定期的に消毒するようにしましょう。
食中毒がおきたときには
家庭や避難所などで食中毒がおきた時には、他の人に広げないことが重要です。
ノロウイルスはアルコールによる消毒ができないため、500mlの水にハイターなどの塩素系漂白剤を10ml(ペットボトルのキャップ2杯分)いれた水溶液を作ります。この塩素系漂白剤の水溶液は、ノロウイルス以外の菌やウイルスにも使用できます。
ただし、塩素系漂白剤は水で薄めたとしても肌につくと炎症をおこすため、手指の消毒などには使えません。そのため、手指や肌は石鹸でよく洗い流すようにします。災害時で水に限りがある場合には、ウエットティッシュでしっかり拭うようにしましょう。
気管に入っても害をおよぼしますのでスプレーなどで噴霧せず、ゴム手袋をして布に塩素系漂白剤の水溶液を浸みこませてふき掃除をします。また、金属を腐食させますので、早めに水拭きをしましょう。
下痢や嘔吐した汚物を掃除するときにはマスクとゴム手袋を使うようにします。できれば、ビニール製のエプロンなどをするとよいでしょう。
まずは汚物にペーパタオルを重ね、汚物と同じくらいの量の塩素系漂白剤の水溶液をかけてからふき取り、汚物をビニール袋に捨て口をぎゅっと縛ります。さらに新しいビニール袋にいれてから口を縛って2重にして処分します。
汚物を回収した後は、塩素系漂白剤の水溶液を布に浸みこませて床や汚れた場所をふき、最後に水拭きをしましょう。
掃除が終わったら、手をすみずみまでしっかり洗い、うがいをすることも大切です。
なお、カーペットやじゅうたんなど水拭きしにくい場所に嘔吐してしまったときには、アイロンをあて85℃で1分以上の過熱をすることで菌やウイルスを死滅させることができます。
洋服などについてしまったときには、水1リットルに対して塩素系漂白剤を4ml(ペットボトルのキャップ1杯くらい)入れたものに洗濯物を入れ、ゴム手袋をして水しぶきが飛ばないよう静かにもみ洗いをしてしばらくつけた後、よくすすいでから洗濯をします。
塩素系漂白剤は洋服を色落ちさせますので、色落ちを避けたい場合には熱湯につけ85℃を1分以上保つようにして殺菌した後に、洗濯をするのがよいでしょう。
また、トイレ、洗面台、水道の蛇口、ドアノブなどよく触る場所を、定期的に薄めた塩素系漂白剤の水溶液でふき取ります。塩素系漂白剤は金属を腐食させますので、その後は早めに水拭きをするようにしましょう。
配信: moshimo ストック