●リビングこそ子どもの自然な学びに適した場所
小川さんが「中学受験でいい成績をとる子」の共通点を探したところ、とくに「楽しみながら受験に臨んでいる子」たちは、幼少期にリビングで自然と学習に触れているケースがよく見られたそう。
「“勉強机”って勉強するイメージがはっきりしていますが、リビングは生活空間です。そこで、日々親子の時間や会話を大事にしているなかで、好奇心に端を発して自然と学びに繋げる、そうした経験を持つ子は、面白がって勝手に勉強する傾向にあります。さらに、リビングに辞書があったり図鑑があったり、好きな本が置いてある。親との生活圏の中に学習にまつわるものもあるわけですが、学習をしようと力むのではなく、生活をしていたら勝手に学習していたというのが“最強”なんだなと思うようになりました」(小川さん、以下同)
たとえば、パパやママと一緒にテレビに出てきた国を地図で調べてみたり、キッチンで料理されている野菜を辞書で引いてみたりと、生活空間で興味を持ったことを深堀するツールがリビングにあることで、子どもの知的好奇心が広がっていくんだとか。
「リビング学習が、なぜ子どもに好影響なのか、それは子どもが自分の自然体で振る舞えるからに他なりません。自然体で振る舞っている中で、面白そうと思ったものを調べ、学ぼうとするから吸収が早い。さらに、リビングに本や地球儀があれば、学校から帰宅するまでに気になったことや、生活に紐づく事柄を個室で一人きりになって調べるのではなく、家族がいる場所で調べることができます。安心できる環境というのは、子どもにとってストレスなく学習できる場所ということなんです」
●リビング学習は“勉強する”とは異なるアプローチ
これらをふまえると、リビング学習は“勉強”と一線を画して考えた方がいいのかもしれません。
「『勉強をリビングで行う』という考え方は間違っています。勉強机に積んでいた本をリビングに持ってきて勉強させることがリビング学習ではなくて、リビングで営まれている日々の生活に、子どもの自然な学びを応援したり楽しんだりする“家族の時間の流れがあること”がポイントなのです。まずは、子どもが当たり前に勉強できるような親子の関係づくりを念頭においてもらいたいと思います。勉強はやらせるものではありません。子どもが自然に始めたいと思えるように導くことが大切です」
とはいえ、リビングにいたら学習をせずにゲームやテレビばかり…と心配になってしまうことも。学習意欲の前に、そもそも学ぶ意欲の土台となる知的好奇心が、我が子にあるのかどうか不安なママもいるのではないでしょうか。
「生まれた瞬間はどの子も知らないことばかりですから、知的好奇心自体に大差があるとは思えません。もちろん生まれながらに慎重だったり、チャレンジングな性格だったりと個性はあるかもしれませんが、それは行動としての表し方の違いであって、あるものに興味を持ったり、何だろうと思ったりする知的好奇心は0歳から2歳段階では大差はないと思います。大事なのは、知的好奇心を子どもの行動につなげてあげることができるか、ちょっとした導き方、出会わせ方、工夫の差だと思います。
たとえば、2歳くらいの子と外を歩いていて、何か興味を持ったものがあったとします。そのときに、“子どもが興味を持つこと”に親も興味を持つんです。『すごいね』とか『面白いことに気がつくね』と伝えて、『興味を持つことはいいことなんだ、面白いな』ということを理解させ、安心させることです。親のちょっとした振る舞い方の違いで、好奇心をどんどん表す子とあまり出さない子の育ち方が分かれていくと思います」
監視と管理で勉強をやらせるのではなく、親とのコミュニケーションや生活の場であるリビングに、学習につながるツールとして図鑑や地図、辞書を置いておくこそが、知的好奇心を伸ばし、ひいては放っておいても自然と学習する子になる、それがリビング学習の最大のメリットだといえるでしょう。
(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)