親になる移行期間中のテーマとは?
子どもが生まれると、5つのテーマ「家事・育児」「金銭」「仕事」「社会的な孤立」「2人の関係」があまりにも大きく変化してしまうため、男女の視点の違いが浮き彫りになります。この不一致から不和が生まれやすいといわれています。
このテーマに関する男女の認識の違いを理解しあって、どのように乗り越えるかがポイントとなります。
親になる移行プロセスとスピードが生物学的に異なる!?
「私たち」だったカップルが、親になったとたん「私」と「あなた」に分裂してしまうのは、何も私たちのせいではありません。
そもそも、百万年前に最初の人類があらわれたときから脈々と伝えられてきた男女のプログラムには違いがあります。これが大きく関係しているのです。
一つは、男女が生物学的に全く違うプロセスを経て親へ移行していくことです。そして、そのスピードは随分と男女で異なります。
そもそも男女って何が違うの?
妊娠期間を経てやっと出産した妻には「私は、この世にまたとない素晴らしい生命を創造した」という恍惚感と、赤ちゃんへの恋愛にも似た一途な感情が生まれます。
これは、どんなに大変でも赤ちゃんが守られるため、母親に仕組まれたプログラムでもあるのですが、母親の頑張りは慢性的な精神的・肉体的疲労につながります。赤ちゃんを守り育てたい、そんな強い思いが「母親としてちゃんとやっていけるかしら」という大きな不安にもつながります。そんなとき、気分のムラはでてきて当然です。
このような中、妻が本当に必要にしていることは、家事のヘルパーではなく家事を平等に担ってくれるパートナーです。そして、いつでもどんなことでもパートナーとして一緒にやっていこうという、夫の言葉や行動から得られる安心感です。「言ってくれれば手伝うよ」という補助的なヘルパーの役割では決してありません。
一方で夫は、母親と同様に妊娠・出産をとてもよろこびますが、生まれてくる赤ちゃんに対して母親と同様の強い感情が生まれているわけではありません。どちらかというと、赤ちゃんへのよろこびは父親としての責任感に変わり、「家族の経済的な安定や社会的な基盤を盤石にしなくては」と、仕事を第一の務めとして最優先で考えます。別の仕事を始めるなど、より仕事に励む父親もいるくらいです。
さらに一般的な夫は、育児と家事の分担は頭でわかっていても、母親ほどの感情の大きな変化はないため、仕事以外ではこれまで通りの生活を維持するような動きを見せます。ましてや、これまで家事の経験が少ない夫は、何をすれば良いのか想像がつかないこともありますね。
もう一つは、男女の役割という歴史の中で、男女の育てられ方が違っていたことから、親になることについて、妻と夫が異なる考え方を持っていること。たとえば、家事分担に対する考え方は、ここ数十年で随分変わってきたため、夫は自分の父よりよく家事を手伝っていると思いがちでしょう。
しかしこれは、妻から見れば「100%のうち20%も家事を担当してくれていない」という不満につながっていることも。共働きが増え、妻側からすれば「もっとやってくれて当然」と、要求水準はむしろ上がっているともいえます。
変化の大きさと不一致を具体的に洗い出してみる
そんな男女の違いを片隅におきつつ、5つのテーマのうち「家事・育児」の不一致について考えてみましょう。
まず前提となる変化の状況を、子どもが生まれた後の家事・育児が以前の何倍となっているか可視化してみましょう。おそらく感覚的なものよりも随分と多くて驚くのではないでしょうか? 週1回だった洗濯が毎日になり、買い物、食事の支度、お皿洗いなど、どれをとっても3倍以上に。赤ちゃんの雑用は気が遠くなるくらい頻繁です。女性は男性の何倍も家事・育児に時間を費やして疲弊し、重荷を一緒に持ってもらいたいと思っています。
一方で男性は、自身の父親よりもたくさんやっていることへの自信や、家計を支える役割を既にこなしているという感覚があります。妻が赤ちゃんに没頭し、自分にむけられていた愛情と注意がなくなってしまった寂しい気持ちや苛立ちがあったり、家事へのダメ出しに自尊心を低下させたりしています。そのような中、妻とうまくやるためには、「家事・育児に関わらないほうがうまくいく」と考えている可能性もあります。
それぞれのテーマについて、そもそも男女で違うのだということを前提にお互いの気持ちや意見を知ると、夫婦の不和の構造がわかってきます。そうなれば、しめたものですね。
次回はこの男女の違いを、脳機能という生まれつき持っている生物学的な特徴からも理解し、良いコミュニケーションの方略を考えていきましょう。