「マミートラック」の「トラック」は、陸上のトラックを意味する。一度このトラックを走ることになると、同じところをぐるぐると走るだけでずっと抜け出せないというイメージも湧いてしまう。
とはいえせっかく育児休業から復帰し、以前と変わらずに働きたいと考えている女性が、なぜ補佐的な仕事をすることになるのだろうか? 女性活躍コンサルタントとして、女性の社会進出を支援する久保田一美さんに聞いた。
●育休復帰後に補佐的な仕事を任されるケース
「子どもが小さいうちは免疫力がないため、発熱や感染症の病気にかかりやすく、そのようなときは保育所に子どもを預けることはできません。そうなると在宅勤務などが認められていない職場では、母親も会社を休む必要があり、上司や周囲にフォローしてもらいながら働く必要が出てくる可能性があります。そのため、上司がその方の状況を配慮し、育児と両立しながら働きやすくするために補佐的な仕事を提案するというケースです」(久保田さん 以下同)
さらに久保田さんは子どもの免疫力だけではなく、母親自身の問題についても言及する。
「育児休業から復帰する母親はいろいろな方がいます。例えば、1年間育児休暇をとって、保育所などに子どもを預け復帰する人。もしくは保育所の定員や申し込み時期の関係などで、子どもがまだ生後数カ月のうちに復帰する人もいますし、母乳育児を続けたまま戻ってくる人もいます。また夫が単身赴任中だったり、親などの育児をサポートしてくれる人がいなかったり、こうした生活の変化や、置かれた状況を上司が知ることで、以前の仕事量では体力的、精神的に厳しいのでは? と、本人の意思より先に配慮されるケースもあるのです」
●「マミートラック」をどう捉えるか?
久保田さんは育児をしながら女性が働く上で問題となっている「マミートラックによるモチベーションの低下」について、「自分がその状況をどう捉えるかの問題」と語る。
「マミートラックで問題が起こるのは、人員的に余裕がある中規模以上の企業という現状もあります。人員を割く余裕がない小規模企業の場合は、子育てをする女性に対し、きちんとしたケアをしたくてもできないケースもあります。また、子どもが幼いうちは、自分の意思で働き方を緩めたいという方もいるでしょう。周囲からみたら同じ現象でも、自分の意思でマミートラックを意識するのか、しないのかで、捉え方が大きく異なります。」
ネガティブに捉われがちの「マミートラック」という状況も、見方を変えれば子育てを支援した働き方を企業が許容しているともいえる。そこでモチベーションを失って陸上トラックをひたすらぐるぐる回っていると悲観するのか、それともそこから抜ける将来像を思い描きながら仕事をするのか。所属する組織の状況にもよるが、本人の気持ち次第な面もあるといえそうだ。
(高山惠+ノオト)