●食べることは、体質や生理的な個人差があるもの。決して強制してはいけません。トラウマを抱えることも!
「昔よりはだいぶ減ってきましたが、いまだに“給食を食べきらないと叱る”“休み時間や掃除の時間になっても居残って食べさせる”といった強制的な指導で苦しんでいる子どもは実は少なくありません。心を解放して過ごせる休み時間も遊ばせないなんて、本当に気の毒です。これは、もはや“指導”という名の“拷問”や“虐待”と言っても過言ではありません」(親野先生 以下同)
食べることは、決して他人が強制できるものではないという。
「食事の量というものは、個人によって大きく違います。食の細い人もいれば、大食いの人もいます。同じ年の子どもでも、食べられる量には大きく個人差があるのです。そのような体質や個人差を無視して、一律に一定量を食べることを強制するなどということはあってはならないことなのです。大人だってそうですよね? 食べきれないこともあります。それなのに、子どもは“食べ残してはいけない”という発想がそもそもおかしいのです」
さらに、食べ物を強制的に食べさせることは、以下のような精神面への深刻な影響や一生のトラウマになるケースもあるので気を付けなければならないという。
〇無理矢理食べさせられた食べ物に対して嫌悪感を持ち、一生苦手になることもある。
〇無理矢理食べさせる親や教師に対して恐怖感を持つようになる
〇強制的な押し付けに抵抗できない自分に無力感を持つようになる
〇叱られ続けることで自己肯定感が持てなくなる。
〇食事の時間が怖くなり、食べること自体に否定的な感情を持つようになる。それは生きることの否定にもつながりかねない
「このように、栄養面や“もったいない”という指導のもと、子どもが精神的に追い詰められ、トラウマを抱えてしまったら本末転倒なのです。好き嫌いについても、無理矢理食べさせることで、嫌いな食べ物だけでなく、食事自体が嫌になってしまうこともあるのですから」
また、次のようなケースも。
「『盛られた物を全部食べられないと思ったら、食べる前に減らしていい。そのかわり食べ始めたら残してはいけない』と言う先生もいますが、これも子どもを苦しめます。大人でもバイキングで取りすぎてしまうことがあるように“食べてみないとわからない”ということはよくあることだからです。食後に、『今日、完食できた人は30人でした』などと発表する先生もいますが、これもやめるべきです。食の細い子に対して、『お前のせいで全員完食にならないじゃないか』と言う子が出てくるからです。これははっきり言っていじめですし、先生がその原因を作っているのです」
では、給食が食べきれずに悩む子どもに、親としてどう対処したらいいのだろうか?
「まず、決して“食べなきゃダメでしょ!”と叱ってはいけません。たとえ叱って残さず食べきり、嫌いな物を食べられるようになったとしても、その代償として大切なものを失っては意味がありません。親御さんはつらいお子さんの気持ちを受け止め“食べられないんだね”“つらかったね”と、共感してやってください」
●担任に相談するときは、“いい関係を保ちつつ”交渉する大人の対応を! 目的はあくまでも“わが子の幸せ”
さらに、この状況から救い出してやるべきだと、親野先生は話します。
「この件に関しては、担任ときちんとした話し合いをもつことをおすすめします。そのときのポイントとしては、まずケンカやクレームではないということ。目的は“子どもの幸せのため”です。担任に日ごろお世話になっている感謝を伝え、いい関係を保ちつつ交渉するようにしましょう」
本題について伝えるときは、例えば以下のように、お子さんがどれほど給食のことで追い詰められ、深刻な状況であるかを具体的に伝えることが大事だそう。
〇わが子はもともと食が細いこと
〇給食のことが気になって学校に行くことが嫌になっていること
〇家でも元気がなくなってきたこと
〇食事の量を減らしてもらいたいこと
〇「残してもいい」ということにしてもらいたいこと
〇掃除の時間や休み時間に食べさせないでほしいこと
「少し大げさでも構いません。わが子を守るためです。ただし、決して文句やクレームと思われないように“大人の対応”を心掛けましょう。また、もしクラスに同じ給食の悩みを抱えている子が複数いる場合は、意見をまとめて保護者の学級役員さんに代表になってもらい伝えてもらう方法もいいかもしれません。食べることは人生最大の喜びのひとつです。
お子さんが食べることに喜びを感じ、生きる喜びを味わえる環境づくりを親としてサポートしてあげてください」
食べることは、生きること。トラウマを抱えてしまってからでは遅いので、親として早めの対応をしてやりましょう!
(構成・文/横田裕美子)