「任意加入だ」と権利・主張しても問題は解決しない?
任意加入を盾にPTAに加入しなかった場合、自分の子どもに不利益が生じてしまうことがあるといいます。いったい、なぜこういった状況になってしまうのでしょうか? 教育心理学の現場で長いキャリアを持ち、自身もPTAの経験がある心理学博士の榎本博明先生に話をうかがいました。
「PTAは義務ではありませんが、多くの保護者が“義務感”から加入して活動しています。そのため“任意加入だから加入しない”と言っても、雰囲気が悪くなるのではないでしょうか。またボランティアで構成されている団体に対し、法律や権利を主張するのは会員の心証を悪くするため得策とは言えません。PTAは、子どもの環境をよくすることを目的とした団体なので、加入を拒むよりも、もっと肯定的な見方をしたほうがいいでしょう」(榎本先生、以下同)
PTAには、前述のような非会員に対する対応や活動に参加できない人が、欠席を言い出せない雰囲気など、多数で少数を抑えつける同調圧力が存在します。これを改善する手立てはあるのでしょうか?
「同調圧力を抑制するには自己主張するのではなく、思いやりの精神を持つこと。それと同時に、保護者同士が顔なじみにならなければいけません。ほとんどコミュニケーションがない状態で、“出られません”や“代わってください”と言っても断られてしまいますが、顔なじみになっていれば、受けてもらえる可能性が高くなります」
榎本先生によると、苦情の多いマンションで住民同士が顔なじみになる活動をしたところ、クレームが減ったという事例があるそう。
「得体の知れない人には、とても攻撃的な気持ちになりますが、知人であればある程度は我慢ができます。もし、どうしても我慢できないという場合であっても、知人であれば気軽に言い合える関係のはずです」
メールやLINEのような文字だけでのコミュニケーションではなく、対面でコミュニケーションをとり、保護者同士の関係性を深めることが、同調圧力の抑制につながるのだとか。
>>関連記事:【PTA】問題だらけの組織はどうして誕生したのか?
コミュニケーションが苦手なら“少し無理”も必要
PTAを肯定的に捉え、活動に参加しようと思っても人と接するのが苦手で、学校へ行くのが怖いと感じる保護者もいます。
「保護者のコミュニケーション能力が低いと、自分だけではなく子どものコミュニケーション能力が低下する危険性があります。そう考えると子どものために、少し自分が無理をしてでも、PTAに参加して友だちを作ってみるといったコミュニケーションをとる努力が必要でしょう。懇親会などでは雑談メインなので参加しづらいですが、PTAの会合は内容が決まっているし聞いていれば良いので参加しやすいと思います」
専業主婦や共働き家庭、母子家庭、親の介護など、各家庭事情は異なるので、誰かに押し付けるのではなく、まずはお互いの立場を理解し合うことが大切と榎本先生。しかし、ただ加入すればいいというわけではありません。
「PTAを肯定的に捉えながら、無理し過ぎないようにすることが大切です。権利主張で“戦う姿勢”を見せるのではなく、お互いが思いやりの気持ちを持ち、役員を引き受けてくれた人には“大変だな”“ありがたいな”と思うこと。役員がどうしても出られない場合には、それをカバーできる仕組みを作っておくことも大事です」
また、「他の保護者や先生にお世話になっている」、「子どもたち同士で迷惑をかけているかもしれない」、「お互い様」という意識が希薄になり、自己中心の主張が強くなることで、いがみ合いが生まれてしまうそう。
「保護者全員が主体性を持ち、自分たちが良い教育環境を作り上げようと努力しているという意識を持つ必要があります。自己主張をするよりも協力し合い、保護者が良い雰囲気作りを心掛けることで、その雰囲気の良さが子どもたちの環境にも反映されます」
こういった環境作りには、保護者同士のつながりの深さが関係してくるのです。
PTAには、自分と同じように不安を抱えている人が多く、そういった集団のなかには必ず心地良い関係性を築ける相手がいるといいます。
各家庭の事情も尊重しなければなりませんが、子どもの教育や安全を見守るというPTAの目的も大切です。お互いに歩み寄ることで同調圧力が薄れ、少しずつ参加しやすい活動へと姿を変えていくのではないでしょうか。
(文・奈古善晴/考務店)
>>関連記事:PTA廃止校が語る PTAを廃止してわかった気づき