老後のお金貯金にポジティブになれる「貯め体質」のコツとは?

第2回 老後を見据え「貯め体質」になる
不安がつきない「老後のお金」。とはいえ、多くの世帯は目の前のやりくりだけで精一杯。先々の貯蓄まではなかなか気が回らないものです。さらに言えば、老いた姿を想像すると気が重くなり、貯蓄を前向きに捉えられない…なんて人も少なくないかもしれません。

ネガティブな思考ではなく、前向きに老後のお金を貯めるにはどうすればいいのでしょうか? 東京・銀座にある「元気が出るお金の相談所」所長で、ファイナンシャルプランナーとして22年にわたって相談者の心にフォーカスして貯蓄指南をしてきたマネーセラピストの安田まゆみさんに学びます。

●長期貯蓄のモチベーションに貢献する「ビジョンボード」

いずれ必ず訪れる老後。しかし、家事や子育て、仕事などに追われる毎日のなかで、真正面から考えることを放棄してはいないでしょうか? すると、「老後にどんな生活をしたいのか」という具体的なイメージも曖昧になってしまいます。そこで、安田さんがおすすめするのは、「ビジョンボード」を取り入れる方法。

「『ビジョンボード』というのは、自分がなりたい姿、理想の生活のイメージに近しいビジュアルをまとめる方法です。たとえば、好きな雑誌などからいいなと思ったインテリアや暮らし、アイテムなどの写真を切り抜いて、A3やB4の色画用紙などに貼りつけます。将来ありたい姿について頭の中で漠然と考えていてもまとまりにくいですが、ビジョンボードを作っていると、その過程で自分がどのようなことに価値を感じているのかを理解できるようになります」(安田さん、以下同)

ビジョンボードの制作では、なるべくハッピーで明るい老後を過ごすイメージを念頭に置くことがポイント。完成したビジョンボードを飾り、それを眺めているうちに、実現のためには何が必要なのかを「考える頭」ができていくそう。いずれ、貯蓄意識もポジティブなものに変わってくるようです。

「先々のことを具体的にイメージできるようになったら、次は実現するために、それぞれの予算を確保していきます。『老後生活には3000万円貯蓄しよう』『老後にベランダガーデンを楽しむために100万円』『海外ボランティアの英語の勉強に30万円』などなど。必要なお金を書き出し、その実現のために退職金や公的年金で足りない分を明確にします。そのうえで、今から毎月、毎年いくら貯めていくのかをざっくりでいいので計算していきます」

老後のお金貯金にポジティブになれる貯め体質のコツとは?

●予算の範囲内であれば「使いたいように使う」が原則

実際に毎月の予算を立てていく際には、貯蓄額も予算に入れることがポイント。給料口座に振り込まれたお金を、「将来(老後や子供の将来の教育費)」と「今の暮らし」のために振り分けていくことが重要だといいます。

「今の暮らしのためのお金は、使い道によって細かく予算を立てていきます。貯蓄額を増やせば、今までのようにお金を使えない費目も出てきますが、そこは悩みどころです。使えるお金は限られているわけですから、家計のご相談に来る方は、みなさん七転八倒しています」

とはいえ、我慢のしすぎはストレスになります。上手に貯蓄できている人は、適度に自分を解放することにも長けているそう。

「プチ贅沢は、予算の範囲で大いに楽しみましょう。プチ贅沢をした分は、他の費目を頑張って、切り詰めていきましょう。というアドバイスをしています」

お金の使い方は家族によってさまざま。『平均的』なんてものはないと安田さん。それぞれの予算の範囲で「自分の使いたいように使う」ことが原則と話します。

「たとえば、『食費は多くするけど、子供たちの被服費はお下がりで賄えるから、夏と冬だけで十分だわ』という人もいると思います。予算の範囲で自由に、それぞれの価値観、考え方でいいんです。

ただし、予算はきっちり守る。これは必須です。ボーナスも同じように分けていきましょう。よく家計管理術として家計簿をつけることが挙げられますが、ただつけているだけで集計をしないのであれば、それは単なる記録だけでしかなく意味がありません。家計簿をつけるのであれば、予算を守れたかどうか、月々の振り返りを必ずすること。予算を守れなかったら、予算の組み替えが必要なのかもしれません。どうやったら予算を守り、貯蓄が計画通りにいくかを考えることが大切で、家計簿をつけることが大事なのではありません。家計簿アプリも同じです。それを次の月に活かすように、有効活用しないといけませんね。『めんどくさい』って、くじけそうになったら、ビジョンボードを眺めてみてください。そうです。ボードにある楽しい老後のために、いま、頑張っているのですからね」

老後のお金貯金にポジティブになれる「貯め体質」のコツとは?

●中期貯蓄の成功体験を重ねることが貯め体質をつくる!

ビジョンボードに貼るものは自由。「こんな暮らしいいな」「こんなペットを飼いたい」など、心が動くビジュアルをどんどんピックアップしていきます。それと同時に、貯蓄にまつわる小さな成功体験を積み重ねることも大切とのこと。

「頑張って家計管理をしても、家族や夫から褒められることって少なくて、なかなか達成感を得られないんです。そこで、長期のお金を貯められるようにするためにおすすめなのが、小さな成功体験を身につけること。たとえば、マラソン42.195kmを初心者が走ろうとしても、多くの人はその距離の長さに高いハードルを感じてしまいますよね。初心者の人が長い距離を走れるようにするには、短い距離から始めるといいといいます。今日はまず1km。明日はその先の電信柱まで。それをクリアできたら、来週は3km先の電信柱までと徐々に距離を伸ばして、1年かけて最終的に42.195㎞を走れるようになるのだとか。長期貯蓄はそれと同じで『今月は食費の予算が守れた。やった~!』と費目ごとの予算達成を確認しては喜ぶことをしていくと、達成感のたびに自分に自信がついてきます。『今年の貯蓄目標が達成できた~!』となれば、貯蓄に弾みがつきますね」

では、具体的にはどんな成功体験が効果的なのでしょうか?

「家族旅行のためのお金を貯めるという、家族で協力し合える短期の目標を立てることも有効な方法だと思います。たとえば、『夏に家族で遊園地に行こう貯金箱』を作ったとします。出先で飲み物やお菓子を買わなかった分を貯金箱に入れ『〇〇ちゃんが、頑張ってお菓子を我慢した分、貯金したよ~。ありがとね。あとこれくらい貯まると遊園地にいけるよ』などと家族の頑張りを『見える化』して、目標達成を家族で喜ぶようにします。そうすると、家族のお金の使い方にメリハリがつくようになります。その上、『楽しい支出(遊園地で遊ぶ)』のために、『必要でないものへの支出(お菓子やジュースを買うこと)』をやめることができたという体験は、家族的にも大事な記憶になります。こうした成功体験を重ねることで、長期の貯蓄も苦にならない体質が出来ていくのです」

老後のお金貯金にポジティブになれる「貯め体質」のコツとは?

●お金を大切にする意識を高める方法とは?

また、お金と“いいお付き合い”をしていくための心掛けとして、次のようなコツを教えてくれました。

「毎晩、お財布の中から翌日の生活に不要なレシートを出します。お札は、綺麗に揃えたうえでお財布に戻します。レシートは捨ててもいいですし、家計改善用に使えるのであれば、袋や箱に入れてもいいでしょう。とにかく『毎晩』です。お財布からレシートを出して、お札をそろえる! これを2週間続けることができたら、次は翌日使うポイントカードだけ選んで、お財布に入れるという作業を加えます。不要なポイントカードはお財布から出し、カード入れを作ってその中に納めます。この2つの習慣ができるようになると、お金を大切にするようになります。今日の振り返りができるとともに、明日の予定を考える訓練にもなるんです。ぜひ実践してみてくださいね」

おさらいすると「ビジョンボードの作成」「中期貯蓄の成功体験」「日々のお金との向き合い方」。この3つのポイントを意識すれば、長いマラソンのような老後資金の貯蓄にも楽しく取り組めるかもしれません。

(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)

お話をお聞きした人

安田まゆみ
元気が出るお金の相談所 所長
1955年、東京生まれ。大学卒業後、雑誌編集者、外資系損害保険代理店を経て、96年からファイナンシャルプランナーとして活動を開始。 東京・銀座の「元気が出るお金の相談所」所長。FP歴22年目。これまでの相談件数は5000件以上、講演回数は1000回を超える。CFP認定者(国際資格)、1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)、NLPプラクティショナー、カラー心理カウンセラー。
1955年、東京生まれ。大学卒業後、雑誌編集者、外資系損害保険代理店を経て、96年からファイナンシャルプランナーとして活動を開始。 東京・銀座の「元気が出るお金の相談所」所長。FP歴22年目。これまでの相談件数は5000件以上、講演回数は1000回を超える。CFP認定者(国際資格)、1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)、NLPプラクティショナー、カラー心理カウンセラー。