●頭の回転の速さを決定づける「土台」とは?
脳の発達は年齢によって段階があり、建物にたとえると、0-5歳までに築かれる1階が「からだの脳」、1歳過ぎから18歳までに築かれる2階が「おりこうさん脳」。いわゆる頭の回転の速さをあげるには、2階の「おりこうさん脳」が発達していることが決め手になります。しかし、土台となる1階がしっかり出来上がらない限り、2階は安定しないのだとか。
「1階の部分をしっかり築き上げるには、乳幼児期からの規則的な『睡眠』と『食事』が大前提です。この時期は、夜は20時までには寝かせ、少なくとも10時間以上の十分な睡眠を取り、朝は遅くとも7時までには目覚める。この3つを心掛けることで、朝はちゃんとお腹がすいて、美味しく朝ご飯をいただくことができます。これを子どもだけ実践するのではなく、親も一緒に実施することが大事。ちなみに、我が家は全員21時までには寝て、早朝4時までには起きて仕事、勉強をしてから朝ご飯をいただきます。この生活が、『からだの脳』をしっかりと作るのです」(成田先生、以下同)
食事についても、栄養ばかりではなく、美味しい、楽しいと感じるような食卓を心掛けることが大事とのこと。
「『健康にいいからこれを食べないといけない』というのはもちろん大事ですが、その前にまずは『お腹が空いたから食べたい』という食欲が起こることが重要です。だからこそ、『食べられて嬉しい、楽しい、美味しい』と思えるのです。もちろん親自身も毎食楽しんでいることが重要です。家族で『塩加減が絶妙だよね』とか、言葉を交わしながら楽しいひと時を心掛けましょう。ちなみに、テレビをつけながらの食事はNG。味も匂いもわからなくなるだけではなく、会話がなくなります。食事を楽しいと感じられる機会を奪ってしまいます」
●良い「おりこうさん脳」を子どもにつくるための習慣とは?
土台をしっかり作ったうえで、1歳を過ぎて言葉を喋りはじめたら、子どもの言葉を引き出すために積極的に話しかけたり、さまざまな経験をさせたりするなど、家庭生活での親の関わりが重要とのこと。
また、「おりこうさん脳」のメインの役割を担う前頭葉の働きが活発な子には、ある「共通の習慣」があるそうです。
「10歳以降に前頭葉機能が良好に発達している子どもたちのデータを取ると、特に3歳から9歳までの期間、よく体を動かし野山を駆け回っていた、外遊びを好む子たちが多いことが実験から明らかになっています。一見、頭の良さと関係ないようなことですが、前頭葉の発達において極めて大切なのは、ルールのない手足を自由に動かす遊びです。幼児期から小学校低学年期には、親子でたくさんじゃれあって、手足を自由に動かさせる遊びをしましょう。これによって、前頭葉に刺激が加わりたくさんの神経のつながり、つまりシナプスが形成されます。」
ポイントはお稽古事の運動ではなく、小学校低学年までに『ルールのない遊び』やじゃれつき遊びの経験を積み重ねるということ。 それに加えて、親たちの意識で大事なのが、子どもに何かをやらせようとするのではなく、親自身が楽しむことだと成田先生はアドバイスします。
「親御さんの多くは、自分が好きかどうか関係なく『良いと言われていること』を先回りして与えようとします。そうではなく、親自身が好きなこと、趣味を一緒に楽しもうという考え方へシフトすることが肝心です。たとえば、料理は右脳・左脳をまんべんなく使うので、子どもの脳を鍛えるにはもってこいです。しかし、親がつまらなそうにしていたら、子どもはまず興味を持ちません。先回りをしたいのであれば、まずは自分自身が“めっちゃ楽しむこと”です。親に愛着を持っている子は間違いなく興味を持ちます。だからこそ、”与える”のではなく、子どもが”奪いにくる”まで待っていただきたいです」
子どもの『育脳』と家庭生活は切っても切り離せないもの。そして何より親の楽しみ方が大切なようです。
(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)