経済効果だけじゃない!主婦が働くための課題点とは

第3回 お金を稼ぐだけじゃない 「働くこと」その意味は
2013年7月に電通総研は、主婦の再就業による直接的な経済効果は3兆円、経済波及効果は6.4兆円になると発表しています。参考までに書くと、JR東日本の売上高(2016年3月期)が約2兆8000億円、同決算期のシャープが2兆4000億円。兼業主婦がもたらす経済効果はそれ以上の規模ということに。今後ますます増加が予想される兼業主婦。はたして、日本にどのような影響を与えるのでしょうか? 慶應義塾大学商学部教授であり、経済学者の樋口美雄さんに話を聞きました。

日本人女性の就業による経済効果試算は様々

専業主婦が働くことで得られる経済効果は、一概にいえるものではないとしつつも、樋口さんは次のように話します。

「女性や主婦の再就業による金銭的な経済効果については、計算の仕方によって異なるため、どの試算が妥当かはわかりません。しかし、『男女共同参画会議基本問題・影響調査専門調査会報告書』(平成24年2月)を見ると、342万人の女性就業希望者の就労により、雇用者報酬総額が7兆円程度(GDPの約1.5%)の増加の見込みがあります。他にも、国際金融機関のIMFも似たような調査をしていて、相当な額のGDPを試算しています。こういったことを踏まえると、女性の就業促進は世帯年収を増加させる一方、生産量を増加させ、経済成長につながるのはたしかです」(樋口さん、以下同)

補足するとGDP(国内総生産)とは、一定期間に生み出されたサービスや商品など、付加価値の総額のこと。各目GDP世界ランキング(2017年度IMF予想)では、1位「アメリカ」、2位「中国」、3位「日本」ですが、世界全体を締める割合を見ると、アメリカ24.4%、中国15.5%、日本6.4%と、大きく差がついています。IMFの専務理事・クリスティーヌ・ラガルド氏は、2012年ごろに「日本の女性労働力率が北欧並みになればGDPが8%上昇する」とも発言しており、女性の社会進出は重要な問題といえそうです。

経済効果だけじゃない!主婦が働くための課題点とは

現在の日本人男性の家事協力度合は1960年代のアメリカ程度

「ワンオペ育児」が話題になるほど、日本の女性はすべてを一人で抱えがち。そんな状況では、正社員としてフルタイム勤務をすることは難しく、パートをする主婦が半数以上です。女性が正社員として働くためには、夫の協力が必要不可欠ではあるものの…。

「日本では、家事・育児は女性の仕事で男性は手伝う程度が本音です。この考えを改善しなければ、女性が正社員として働きに出るのは難しいでしょう。アメリカでは、男性が家事・育児を手伝うとよくいいますが、実は、アメリカ社会の変化の表れであって、1960年代の統計を見ると、いまの日本の男性と同じ程度しか家事・育児をしていなかったんです。アメリカで女性の社会進出が盛んになった結果、夫婦での家事・育児の分担が行われるようになりました。経済環境の変化とともに、女性が働きに出るようになり、男性も家事・育児をするようになったというのが実態です」

共働き家庭になると、子どもと接する時間が気になりますが、樋口さんによると、減る可能性は低いとのこと。アメリカの変化を見ても、主婦が働きに出ることで、むしろ子どもと過ごす時間は増え、代わりに家事を合理化することで家事時間が減ったといいます。ちなみに、日本の最近の統計でも、男女ともに家事時間は減りながらも育児時間は延びているのだとか。

また、「以前は女性が働くことで少子化につながると考えられていましたが、最近では国際的に比較してみると、育児・仕事を両立できる社会環境が整っている国では、共働き家庭のほうが出生率が高くなることがわかりました」と樋口さん。しかし、保育所の整備や男性が育児参加しやすい就労環境作りなど、諸外国とは異なる日本の問題点も指摘します。

行政の待機児童対策や企業の男性社員の育児制度など、子育て中の夫婦をサポートする動きもありますが、まだ身近に感じられるほどではないのが実情。女性が働きやすく、男性が育児に参加しやくなるために、今後の社会の変化に引き続き注目しましょう。
(文・奈古善晴/考務店)

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お話をお聞きした人

樋口美雄
樋口美雄
慶應義塾大学商学部教授、元日本経済学会会長、商学博士
コロンビア大学経済学部客員研究員やスタンフォード大学経済政策研究所客員研究員などの経歴を経て、慶應義塾大学商学部長を務める。『労働経済学』(東洋経済新報社)、『大学に行くということ、働くということ』(岩波書店)など、数多くの著者を持つ。
コロンビア大学経済学部客員研究員やスタンフォード大学経済政策研究所客員研究員などの経歴を経て、慶應義塾大学商学部長を務める。『労働経済学』(東洋経済新報社)、『大学に行くということ、働くということ』(岩波書店)など、数多くの著者を持つ。