●学校で先生方が頭を抱える子どもには特徴がある
「私は以前、発達障がいや知的障がいを持つ非行少年が集まる“医療少年院”に勤務していました。当初は、凶暴な子ばかりいるのではと身構えていましたが、実際は違ったんです。そこに居る多くの子どもたちは、簡単な足し算、引き算ができない、漢字が読めない。そればかりか、簡単な図形を写したり、短い文章すら復唱できない、身体が不器用といった子どもが大勢いたのです。さらに、見る力、聞く力、想像する力がとても弱く、それが対人関係トラブルにも影響し、その生きづらさが非行の一因にもなっていることに気づきました」
一方で、一般の小・中学校を対象にしたコンサルテーションや発達相談にも携っていたという宮口先生は、学校教育現場でも多くの子どもたちが少年院で出会った子どもたちと同じようなところでつまづいていることを知ったという。そして、そのように生きづらさを抱え困っている子どもには共通した特徴があるそう。
・認知機能の弱さ
・感情統制の弱さ
・融通の利かなさ
・不適切な自己評価
・対人スキルの乏しさ+身体的不器用さ
「現在の学校教育では、国語や算数といった教科教育が中心となっていて、こういった困った状況を抱えた子どもの支援は行われず、見逃されたり、置き去りになっているのが現実です」
記憶、言語理解、注意、知覚、推論・判断という、生きるうえの土台となる認知機能が弱いがゆえに、勉強のみならず、対人関係もうまくいかず苦しんでいる子がたくさんいるのが現状だという。
「もちろん勉強ができるにこしたことはありません。しかし、私としては、まず社会性こそが教育の最終目標ではないかと思っています。社会性があれば、勉強ができなくてもなんとか生きていけますが、勉強だけできても社会性に問題があれば、社会でうまく生きていけないばかりか、犯罪につながる可能性もあるのです」
●コグトレは困っている子どもの支援を網羅したプログラム
こういった背景もあり、これまで困っている子どもをどう支援していいか打開策が見つからなかった学校からの要望も増え、コグトレを学校向けに簡易化した『1日5分! 教室で使えるコグトレ』(東洋館出版社)が出版され、注目を集めているという。
「学校教育現場で先生方が頭を抱える子どもの行動は様々です。発達や学習の遅れ、発達障がい、いじめ、不登校、非行など、数えきれない課題があります。そのような“困っている子ども”の支援すべてを網羅しているのが“コグトレ”です。」
コグトレのプログラムは、以下のようになっている。
◆認知機能強化トレーニング(学習面)
基礎学力の土台となる“覚える”“数える”“写す”“見つける”“想像”する力を伸ばす紙と鉛筆を使ってできるトレーニングで、ワークブックも発売されている。
例)簡単な点つなぎ、間違い探し、升目に並んだ数字を記憶して、別紙に書き込むなど、様々な課題がある。
◆認知ソーシャルトレーニング(社会面)
感情のコントロール、危険を察知する力、対人スキル、問題解決力をトレーニングする。
例)イラストの人の表情を見て、その人がどんな気持ちかを考えたり、イラストに描かれた状況から、先に起こりうる危険を察知するなど。
◆認知作業トレーニング(身体面)
不器用さを改善するために、身体をうまく使う方法をトレーニングする。
例)新聞棒を使った“棒運動”指先を使った“爪楊枝積み”や、他人の動きをまねたり、動きを言葉で伝えるなど。
さらに、“コグトレ”をやるにあたって、もっとも重要視しているポイントがあると、宮口先生は話します。
「コグトレによって、学習面、社会面、身体面、すべてにおいて、自分は何ができて、何ができないのか? そのつまづいているところを具体的に知る“気づき”が重要なのです。
例えば、点を結ぶ、絵を探す…といったことはなんでもないことのように思えますが、それが実際にできないまま国語や算数の教科学習で苦しんでいる子もいるんです。見る、聞く力、想像する力がないために、勘違いから対人トラブルが多かったり、身体の不器用さからいじめにつながるケースもあります。そのすべては、自信のなさにもつながってしまいます」
また、コグトレの利点として勉強と違い、パズル感覚、ゲーム感覚でできることが子どものやる気を引き出すという。
「コグトレでは、子ども自身が課題ワークやグループディスカッションなどを通して楽しみながら気づくトレーニングなんです。漢字や計算を間違えれば、子どもは傷つきます。しかし、コグトレの課題は、ゲームをやるような感覚でつまづきに気づけるので、子どもがトレーニングに取り組む意欲を引き出して、解決に導いていくことができるのです」
今後、“コグトレ”の必要性は、ますます高まっていくことでしょう。子どもたちは日本の未来を担う大切な存在。そんな子どもたちを学校が、社会が支援し、守っていかなければなりませんね。
(構成・文/横田裕美子)