日本で消費される羊肉の99%以上が輸入もの
小竹:オーストラリアでもスパイスカレーは食べられているのですか?
三橋さん(以下、敬称略):食べます。オーストラリアは多民族国家なので、スパイスが日常に溶け込んでいる。アボリジニという先住民の人たちは薬として使ったりもします。「ブッシュ・タッカー」というのですが、自生しているスパイスやハーブもよく使うので、オーストラリアはインド系やスパイス系の料理が実はすごく多いです。
シャンカールさん(以下、敬称略):盛んでしたね。メルボルンにもすごくおいしいインドカレーのお店がありました。あと、フュージョンで、小皿で1皿ずつ出すような料理とかね。
三橋:いろいろな国のバックグラウンドがあるので、最近はしそや味噌、わかめ、昆布などが人気で、和の食材や香辛料もかなり浸透していると思います。
小竹:調理ですが、ついにここでラム肉が入ります。
シャンカール:このくらい厚く切るといいですね。
三橋:今回はオージーラムを使っていますが、日本で消費されている羊の肉は99%以上が輸入ものなんです。国産を増やそうという流れもあったのですが、戦後の肉の輸入の自由化もあり、ラムは生産性も牛や豚に比べて低いので、国産が普及しなかった。なので、今は99%以上が輸入で、7割以上がオーストラリア産です。
小竹:やはり、日本だとなかなか難しい?
三橋:湿度が高いし、土地もそんなにない。ラムは大平原の牧草でのびのびと育てるので、なかなか日本ではそこがマッチしなかったというのはありますね。
小竹:世界で一番羊を飼っているのはオーストラリアですか?
三橋:実は世界で一番羊を飼っている国は、ダントツで中国なんです。ナイジェリアやインドも多い。人口が多いというのもありますが、羊の数も多いんです。
シャンカール:ナイジェリアの羊の肉はおいしいんですか?
三橋:食べたことないんですよね。ただ、アフリカはイスラム系の方も多いですからね。あと、結婚するときに結納返しみたいな感じで、旦那さんの実家から羊を30頭もらったなんて話を聞くこともあります。だから、お金と同じくらいの価値があるものと言われていますね。
小竹:それは自己消費だと思いますが、輸出でいうとやはりオーストラリアが多いのでしょうか?
三橋:そうなんです。自分たちで消費しているのは中国などですが、輸出に関してはオーストラリアが世界第1位で、次いでニュージーランド。これがTOP2です。日本は生産量が少ないこともあって、オリーブオイルと一緒で、輸入に頼ると決めたことで関税は0%です。
小竹:料理のほうですが、お肉が焼けてきましたね。
シャンカール:肉の表面を表裏焼いたので、濃厚な味わいをつけるためにヨーグルトを加えます。最初のテンパリングがバターとカルダモンだったので、ヨーグルトがすごく合います。ココナッツミルクなどで煮込むと南インド風になり、ヨーグルトだと北インドになります。
小竹:同じ乳製品でも違うのですね。
シャンカール:日本は酸味の強いものから濃厚でクリーミーなものまでヨーグルトの種類もいろいろとあるので、それを選んでカレーを作るのも面白いですよね。
小竹:今日使うのはどういったヨーグルトですか?
シャンカール:馴染みやすいので、クリーミータイプのヨーグルトを使います。それにお水を100ccほど加えます。ヨーグルトだけよりも水を加えたほうがさらに馴染みやすくなるんです。これを煮込んだらパクチーとガラムマサラを最後に入れます。
ラム肉とスパイスの可能性が広がってきている
小竹:ラムチョップ以外にラム肉が入ってきたのはここ数年ですよね?
三橋:北海道は昔からありましたが、本州でよく見るようになったのはここ数年かもしれないです。コロナ禍にあまりお金が使えずに買い控えがあったときに、やはり鶏や豚のほうがみなさんよく食べる。でも、消費者も飽きてきて、ちょっと違うお肉を提案したいというときにラムが注目されて、全国のスーパーでもラム肉を扱い始めたんです。
小竹:外食ではラム肉ブームが何度かありましたよね?
三橋:ありましたね。2005年くらいがジンギスカンブームでした。そのときは「BSE」という狂牛病の影響の代わりになるお肉みたいな捉えられ方をして持ち上げられたのですが、文化などが馴染んでいなかったので一気にトーンダウンしてしまいました。
シャンカール:やはりブームはすぐに落ち着いちゃいますよね。
三橋:それで2015年のひつじ年くらいから、ラムバサダーとともに徐々に増えてきた感じですかね(笑)。
小竹:料理のほうが仕上がってきました。
シャンカール:最後は味を見ながら、塩が足りないと感じたら少し足す感じでいいです。最終的には塩で味を決めます。その後すぐにパクチーを入れます。尖っていた味をうまく馴染ませてくれるのがパクチーなんです。そして、煮込むと香りが飛ぶので、いい香りをつけるためにガラムマサラを入れます。
小竹:ラム肉の外食ブームは何度かありましたが、家庭の中ではなかなか広がらない中、少しずつ変化も起きてきていますよね?
三橋:ジンギスカン以外の可能性が徐々に広がってきた感じはします。それはスパイスとともにでもあるかもしれないです。割と身近になってきたのでね。
シャンカール:スパイスが身近になったのは、2013年ぐらいから徐々に小売商品が売れてきました。家庭で揃えて、自分でスパイスカレーを作るみたいな人が増えてきたのでしょうね。東京カリ〜番長の『世界一やさしいスパイスカレー教室』という本は、2016年に発売してすごく売れたんです。スパイスカレーを簡単に作り易く紹介した本で一番登りつめたタイミングだった気がします。
小竹:ラムバサダーには、ほかにはどんな方がいらっしゃるのですか?
三橋:本当にいろいろな方がいて、お肉屋さん、料理家の方、町場のシェフ、ホテルのシェフもいらっしゃいますし、ユニークなところでいうとゆるキャラもいます。
小竹:ゆるキャラ?
三橋:札幌市公認のサッポロスマイルPR大使をやっているジンギスカンの「ジンくん」も仲間になってくれています。ラムバサダーはちゃんとユニフォームもありますし、遠方から来てくれる熱烈なファンもいらっしゃいます。だから、いろいろなジャンルの方がいていいかなと思っています。
配信: クックパッドニュース