そんななか、今年7月にユニクロでユニークな取り組みが行われた。それが、「はじめてのコーディネート体験 MY FIRST OUTFIT」だ。子どもが店舗スタッフのサポートを受けながら自分で服を選び、最後はその服を着て親にお披露目をするもの。服選びに親は立ち会えないため、子どもは自分の意志で好きな服をコーディネートしていたという。
この企画に賛同した、玉川大学で乳幼児教育学を研究する大豆生田啓友(おおまめうだ ひろとも)教授は次のように語る。
「子どもが自分の服を自分で決めて、親はそのことを『すごい!』といって喜ぶ。これはものすごく子育てにおいて大事なことです。なぜなら自分で主体的にかかわり、それを親がきちんと受容することで、自分のことを自分で決める『自己決定力』が育まれるからです」(大豆生田教授 以下同)
●子どもが自分で服を選べるのはうれしい体験
大豆生田教授は「MY FIRST OUTFIT」の現場で子どもの服選びの様子を見ていたが、特に印象に残った光景があるという。
「自分でコーディネートをする前に、お母さんと一緒に服を見てまわっていた女の子がいました。実はお母さんがそこで『これ絶対いいわよ、これにしなさい』と服を決めてしまい、その子はずっとお母さんが選んだその服しか選べなかったのです。でも、最後になって『これもいいかな』と、自分が選んだ服も一緒に持ってフィッティングルームへ行きました」
すると、出てきた時に着ていたのは、自分が選んだ服だったそう。
「彼女は『私、こっちのほうが似合うと思う』とにっこり笑ったのです。自分のことを自分でする時間や、自分の思いが尊重されることは、子どもにとってとても幸せなことなのだと、改めて感じた出来事でした」
●子どもが自分で服を決めることは、自己決定力のアップにつながる
おそらく下見でつい服を決めてしまったお母さんも、悪気はなかったのだろう。そんなママたちについて大豆生田教授は「日本のお母さんは子どものことを『できない』と思い込み、先回りしてしまう傾向がとても強い」と指摘する。
「最近の乳幼児研究では、乳幼児は僕らが思っている以上に極めて有能であることが分かっています。例えば子どもに好きな服を選ばせると、親はただ『自分の好きなデザインの服を選んでいる』と思いがちです。でも実際の子どもはそれだけではなく、自分の体形に合うかはもちろん、『ママだったらどう思うか?』と親の反応まで考える。でも親が先回りしすぎるとどうなるか? 自分のことを自分で決める『自己決定』の力をつぶしてしまうのです」
近年日本の教育現場では「アクティブ・ラーニング」といわれる、主体性と対話を重視する教育方針となっている。それに基づき、学校の入学試験も“詰め込み型”から変わっているが、この「自己決定力」はまさにアクティブ・ラーニングに通じる大切な力となるという。
子どもの自己決定力を養うことは、身近なことからでもできる。そのひとつが服選びだ。今度一緒に服を買いに行く時は、子どもに「どの服を着たい?」と聞いて、そしてそれを「いいね!」と喜んであげることから始めてみよう。
(取材・文:高山惠 編集:ノオト)