温かみのある手作り品を子どもたちに届けたい
見るからに子どもが喜びそうな色とりどりのフェルト玩具。これを作っているのはチクチク会のボランティアメンバーたちです。
代表の田中弘実さんに活動内容について聞きました。
「チクチク会は公民館などに不定期で集まってフェルトのおもちゃを製作しています。おもな活動拠点は東京と千葉ですが、自宅で作業している支援者も全国に数百名います。クリスマス前になるとたくさんの手作り品が集まるので、すべてラッピングして病院で過ごす子どもたちに届けています」(田中さん、以下同)
フェルトや布などの材料は、企業に掛け合って端切れを提供してもらったり、Amazonの「ほしい物リスト」からの寄付で調達しているのだそう。
2人の子どもを育てる主婦である田中さんが、どうしてこのような活動を始めたのでしょうか?
「きっかけは東日本大震災です。過去に自分が住んでいた街が壊滅状態になっているのを知って、すぐに被災地から依頼があったものを送りはじめました。そんな中、子どもたちのために手作りの玩具を送ったらすごく喜んでくれたんです。人の手で作ったものは心に響くんだと感じて、被災地の保育園などにフェルトの玩具を送るようになりました」
震災をきっかけにボランティアを身近に感じるようになった人は多いと田中さん。その動きは、「自分にもなにかできることはないか」と考えていたママ友たちの間にも一気に広がっていきます。
あっという間に全国的に広がったママたちの活動
積極的にニュースリリースを発信してこの取り組みをマスコミに取り上げてもらうことで、支援の輪は全国に広がっていったのだそう。
「当初は被災地支援がメインでしたが、参加人数が増えるにつれて、様々なご縁があり、今ではクリスマスを病院で過ごす子どもにプレゼントを配ったり、児童養護施設に訪問して子どもたちに裁縫を教えたりと活動の場も広がっています。ひとりではできることは限られてしまうけど、たくさんの人のちょっとずつの力が集まれば、大きなことができるんだな、と実感しています。これまでに1万人以上の子どもたちにプレゼントを送ることができました」
でも、ただでさえ忙しい主婦たちがボランティア活動を続けるのは簡単なことではないのでは?
「皆さんそれぞれに、子どもがいたり、仕事があったり、介護をしたりの日々の中で、ボランティアは10番目くらいの存在でいいと思っています。だからチクチク会では『絶対にこれだけ作らなきゃいけない』とか『必ず集まりに来なくちゃいけない』というのはなくて、やりたい人がやりたいことを自由にやっているスタンスなんですよ。それぞれある時間を使って、出来る事を細く長く続けていきたいと思っています」
「ありがとう」が連鎖する場所作り
公民館などで不定期に開催しているチクチク会には、赤ちゃん連れで来るママも多いのだそう。
「裁縫に熱中する人もいれば、集まった子どもたちの遊び相手をしてくれる人もいたりして、地域の方々の交流の場にもなっているんです。裁縫が得意じゃなくても大丈夫。実は私自身も不器用で裁縫が苦手なんです(笑)。小さい子どもがいると特に、家にこもりがちになって世間との接点をなくしてしまうママも多いですが、ボランティア活動に参加することで自分の居場所を作ってもらえればいいなと思います」
ボランティア活動というと身構えてしまう人も多いですが、動機はなんでもいいから興味のあることを気軽にやってみればいい、と田中さんは言います。
「普通に生活していると、誰かに『ありがとう』と言われることは少ないですよね。でもここではたくさんの『ありがとう』が飛び交っているんです。生地を提供してくれて『ありがとう』、縫ってくれて『ありがとう』、届けてくれて『ありがとう』、そしてなによりプレゼントを受け取った子どもたちからの『ありがとう』。この取り組みを通してたくさんの『ありがとう』が連鎖している気がします」
誰かのための行動が自分自身の世界も広げてくれる。感謝の気持ちをリレーする素敵な連鎖が生まれているようでした。
(文・宇都宮薫)