間違った腹筋トレーニングあるある
体を上げるのに必死!
「腹筋を鍛える代表的なトレーニングと言えばシットアップですが、体を起こすことに必死な方がとても多いんです。実は、より重要なのは下ろす時。ゆっくり丁寧に体を倒しながら、腹筋が伸びていく感覚を意識することが大事です」(寺田さん。以下同)
筋肉というのは、縮む時ではなく、伸びる時に筋繊維の破壊が起こり、壊れた筋繊維の修復を図る際に肥大する。このメカニズムを理解していれば、重要なプロセスがどこかということがおわかりいただけるであろう。
腹筋下腹部を鍛えるのに効果的なメニューでも同様のことが言える。
「リバースクランチの際も、足を上げることばかりに一生懸命になって下ろすプロセスがおろそかになっている方がいますが、こちらもゆっくり丁寧に下ろすことで腹筋下腹部の筋が伸び、伸びることで筋力が鍛えられます」
効かせたい部位以外が痛い=フォームが間違っている
筋トレをすれば筋肉痛になることは免れないが、無駄な痛みにはなんの意味もない。よくトレーニングをする際に聞くのが、「腰が痛くなった」という声だ。これはトレーニングに何らか間違いがある証左だと寺田さんは指摘する。
「腰が痛くなってしまうのはフォームが間違っているから。怪我につながるのでただちに修正しましょう。そもそも効かせたいと思っている部位以外が痛むというのは、狙った筋肉を鍛えられていない証拠です。例えば、腕立て伏せをしている時に腕が辛くなってくる人は、本来効かせるべき胸筋が鍛えられておらず、腕を鍛えている状態なのです」
やみくもに毎日トレーニグしている
既出の「筋肉痛」だが、「痛みがあるうちはトレーニングは行わなくてもいい」と寺田さんは進言する。「毎日」「ハードに」「回数多く」がなんとなくマッチョへの王道なような気が素人にはするが、これは大きな間違い。
というのも、筋肉はトレーニングをすると疲労し、筋力は低下する。しかし、筋力が落ちたままでは困るので、身体は回復しようとする。この、疲労から回復に向かう過程において、前のレベルを超えて筋力が高まる「超回復」という反応が起こっていると考えられている。
筋肉の回復には48時間〜72時間程度要すると言われ、この回復期には、筋肉の中でタンパク質の合成レベルが高くなる。栄養素として摂ったアミノ酸を合成して新しいタンパク質をつくり、筋肉を太くしようとするからだ。その合成は48〜72時間後くらいまで続く。そこでおそらく、筋肉の修復・合成がひと段落すると考えられ、超回復が起こっていると考えられる。
この期間を有効活用することが実は重要なのだ。ゆえに、毎日やみくもにトレーニングするのではなく、「適切な間隔をあけることが大事です」と寺田さんは話す。
さらに腹筋は、ただ座っているだけでも使う筋肉。休ませているつもりでいて、日常生活においても使っているので、意識して休養することが大事だ。
効果的な腹筋トレーニングのポイント
正しい負荷設定をする
トレーニング行う際、よく耳にするのが●回×●セット。トレーニングの負荷を語る上で欠かせない、RMだ。Repetition Maximumの頭文字をとったもので、「最大反復大回数」を指す。例えば、6RMは、「一度に6回までしか連続できない最大の負荷」のこと。「もうこれ以上できない!」という限界まで追い込むことで、筋肉に強い機械的ストレスと代謝ストレスが加わり、筋肥大する。
「もし、筋肉痛がすぐ抜けるようであれば、トレーニングの強度が足りていない証拠。RMを上方修正して負荷を高めましょう。逆に、4日経っても筋肉痛が緩和されない場合は、負荷をかけ過ぎてオーバーワークになっています」
では、RMの適正値はどう設定すればよいのだろうか。RMは、筋肉を大きくしたいのか、ダイエットしたいのかといった目的によって異なるし、ビギナーなのかベテランなのかによっても変わるので一概には設定できない。目的と現状に照らして最適なものを設定するのが大事だ。
ただし、1セットトレーニグして終了では意味がないので、3セットは繰り返し行いたい。トレーニグ科学の分野では、1セットしかやらない時の効果は、3セットやった効果の1/3ではなく、それ以下だと言われている。
「心拍数、呼吸が落ち着いたら次のセットを開始しましょう」
効かせたい筋肉を意識する
ただ漫然とトレーニングするのではなく、何のためにトレーニグするのかという目的をもってトレーニングすることでパフォーマンスが変わってくると寺田さんは言う。
「MMC(mind muscle connection:マインドマッスルコネクション)という鍛えたい筋肉に意識を集中させることで、筋繊維が活性化するという説があります。あらゆるトレーニングにおいて有効でしょう」
鍛えたい筋肉を「意識する」ためには、「鍛えたい筋の走行を理解することが大切」だと寺田さんは話す。今やインターネットでも簡単に筋肉の構造を知ることができるので、一度調べてみると面白いはずだ。トレーニングの理解が深まり、精度を高めることができるので是非おすすめしたい。
腹筋上部だけでなくバランスよく鍛える
腹筋を鍛えるメニューと言えば「シットアップ」「クランチ」を思い浮かべる人が多いはず。鉄板メニューとして励んでいる読者も多いことだろうが、決してそれだけやっていれば万能というわけではない。
「この2つのトレーニングは腹筋上部に効果的。しかし、上部ばかり鍛えてもバランスのとれた美しい腹筋はできません。鍛えづらい下部や腹斜筋もバランスよく鍛えることが重要です」
腹筋の種類をおさらい
4つの筋肉で構成
ここで改めて「腹筋」について説明しよう。腹筋は、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の4つから構成される。
ここで改めて「腹筋」について説明しよう。腹筋は、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の4つから構成される。
1.腹直筋
「腹筋」と同義語の部分。体の前の部分にある縦長の筋。背中を前方に丸めて上体を前方に曲げる(体幹屈曲)筋。
2.外腹斜筋
体の側面で最も表層にある筋。背中を横に曲げる動きや、反対側にひねる動きの立役者。腹直筋同様、体幹屈曲にも働く。
3.内腹斜筋
外腹斜筋の深部にある筋。外腹斜筋や副王金と内臓を収める腹壁を形成する。外腹斜筋とともに、体を横に曲る、上体をひねる動きで大活躍。腹直筋、外腹斜筋とともに体幹を固定する働きもある。
4.腹横筋
内腹斜筋に覆われ、側服では一番深層にある筋。呼吸における、息を吐く際の主役の筋肉。腹腔の内部を圧迫し、お腹を凹ませる。
効果的な部位別 腹筋トレーニング
各部位に効果的なトレーニングを寺田さんに紹介していただこう。
腹直筋上部に効くトレーニング
<シットアップの行い方>
1.仰向けになり、両膝を90°程度に曲げる。両手は胸の前でクロスする
2.ゆっくり上体を起こす
3.背骨を1つずつ床につけるイメージで、ゆっくり床に上体を下ろす
4.2、3を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
動作はゆっくり行う方が、筋への刺激が強くなるので効果的
<クランチの行い方>
1.仰向けになり、両膝を上げる。股関節、膝関節がそれぞれ90度になる位置でキープ。手を頭の後ろで組む
2.肘を膝に近づけるイメージで、息を吐きながら上体を丸めていく
3.息を吸いながら上体を元の位置に戻す
4.2、3を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
動作はゆっくり行う方が、筋への刺激が強くなるので効果的
<リバースクランチの行い方>
1.ベンチに仰向けになる。耳の横付近でベンチを掴む。股関節、膝関節がそれぞれ90度になる位置で両膝を上げてキープ
2.後転するようなイメージで、お尻を上げる
3.ゆっくり下ろす
4.お尻がベンチについたら、再び上げる
5.2〜4を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
•お尻をベンチに下ろす際、背骨が一つ一つ床面につくようなイメージでゆっくり下ろすと腹筋に効果的
•2の際、太ももが胸に近づいてしまうと腹筋への効き目は半減。上げた時、太ももと胸は離した状態でトレーニングを行うことが大事
「腹直筋下部」に効くトレーニング
<シザースの行い方>
1.ベンチに仰向けになる。耳の横付近でベンチを掴む
2.足をベンチに対して垂直に上げる
3.片足を残し、もう片方の足をゆっくりと下ろしてベンチに近づける
4.足を元の位置に戻す
5.逆の足をゆっくりと下ろしてベンチに近づける
6.足を元の位置に戻す
7.慣れてきたら、足を交互に上げ下げする
<筋トレ、ここがポイント!>
足を下ろす際に、腰がベンチから浮くと腹筋に力が入らず筋トレ効果は低減。腰痛を引き起こすリスクもあるので、ベンチに腰をしっかりつけ腹筋を使うことを意識する
<レッグレイズの行い方>
1.ベンチに仰向けになる。耳の横付近でベンチを掴む
2.両足を上げる
3.両足を揃えてゆっくり下げる
4.2、3を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
シザース同様、足を下ろす際に、腰がベンチから浮くと腰痛にもつながるので注意。
<ハンギングレッグレイズの行い方>
1.バーにぶら下がる
2.足を伸ばした状態のまま、両足を上に高く持ち上げる
3.両足を下ろす
4.2、3を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
•強度が足りない、もっと鍛えたいという場合は、3の際にゆっくりと時間をかけて下ろすと腹直筋下部への刺激が高まり効果的
•足を振り下ろした反動で足を上げてしまうとトレーニング効果が低下するので注意
腹斜筋に効くトレーニング
<ツイストクランチの行い方>
1.仰向けになり、両膝を上げる。股関節、膝関節がそれぞれ90度になる位置でキープ。手を頭の後ろで組む
2.右の肘を左の膝に近づけるように上体を持ち上げる
3.左の肘を右の膝に近づけるように上体を持ち上げる
4.2、3を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
動作はゆっくりと正確なフォームで行い、筋の刺激を高める
<ウインドシールドワイパーの行い方>
1.バーにぶら下がる
2.足を伸ばした状態のまま、両足を上に高く持ち上げる
3.2の体勢をキープしたまま、側面に両足を倒して体幹をひねる
4.反対側に足を倒して体幹をひねる
5.車のワイパーのような動きを繰り返す
ウインドシールドワイパー(初級編)
ウインドシールドワイパーは上級者向けのトレーニング。難しい場合は、まずはこちらから試してみよう。
<ウインドシールドワイパー(初級編)の行い方>
1.仰向けになり、両膝を90度に上げる。腕は体の横に開く。両肩は必ず床につける
2.1の体勢をキープしたまま、肩が浮かないギリギリのポイントまで膝を側面に倒して体幹をひねる
3.反対も同様に行い、左右繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
強度が足りない場合は、両膝を伸ばした上体で行うと腹斜筋への刺激がより高まる
自宅でできるアイテムを使ったトレーニング
アブローラーを使った腹直筋に効くトレーニング
<行い方>
1.膝をつき、肘を伸ばして両手でアブローラーを握り、体を支える
2.ローラーを前方に転がしていく
3.体が地面に倒れこみそうになる手前で、腹筋を使って元の位置まで戻ってくる
4.繰り返し
<筋トレ、ここがポイント!>
・上体が前に倒れている2の時に、背骨がまっすぐであること。背中が丸まるのも、反るのも間違ったフォーム
・お尻の位置は変わらず、手だけでローラーを転がして伸びきった状態は、腰、肩に痛みが出る間違ったフォームなので注意
あわせて行いたい腹筋ストレッチ
腹筋トレーニングの効果を正しく得るためには、「腹腔内圧( 以下、IAP)を高めるためのアクティベーションを取り入れるのもおすすめです」と寺田さんはアドバイスする。
IAPを高めるとは、空気を肺に取り込むことで横隔膜が下がり、腹腔内が圧縮され、腹筋群を始めとする他の筋肉に外向きに力がかかっている状態のことを指す。
IAPが高まるとなぜ良いのかといえば、体幹が安定するのだ。それによって四肢は無理のない効率の良い動きが実現できるので、怪我の予防になる。腰痛、肩こりや姿勢の悪さは、IAPと無関係ではなく、IAPを高めることができずに偏った体の使い方をしているがために、ひずみが連鎖している可能性は高い。さらに、IAPが低く四肢の機能不全が起こっていれば、せっかくトレーニングしたとて狙った筋肉に効いていないとなれば、苦労も水の泡だ。
IAPを高めるアクティベーションを行うことで、既出の怪我防止だけでなく、トレーニングの正しい効果を享受でき、筋肉増強のためにより高い負荷をかけることができるというわけだ。
以下、取り入れると良いアクティベーション、ストレッチ動画をご紹介しよう。
<行い方>
1、仰向けに寝る
2、両足を上にあげて足の外側をしっかり手で握り、肩の力を抜く
(赤ちゃんの6ヶ月のポーズ)
3、鼻からしっかり息を吸い、口から吐くを繰り返す
4、右手で左足の外側を握る
5、鼻からしっかり息を吸い、口から吐くを繰り返す
(おへその横側をしっかりと膨らます)
<ストレッチ時のポイント>
・息を吸うときにはお腹が膨らみ、吐き出すときにお腹がへこむように呼吸を意識する
・お腹をしっかりと拡張する
・呼吸を常に意識しながら、ゆっくりとした動作で取り組む
<エロンゲーションの行い方>
1、両手でバーを握る
2、足を上げて体全体でぶら下がる
3、重力で体が伸びている感覚を感じる
(2,30秒維持する)
<ストレッチ時のポイント>
・必ず両手でバーを握る
・背骨や腹筋が伸びていることを意識して
・腕や肩に痛みがある場合は、故障の原因となるのでやめる
<ブリッジの行い方>
1、寝転がり膝をたてる
2、両手を頭の横に(耳の位置あたり)置く
3、おしりを上に上げる
(2,30秒維持する)
<ストレッチ時のポイント>
・腹筋が伸び、背中の筋肉が収縮していることを意識する
・おしりを上げている時、足ではなく両手に体重をのせてキープする
<腹斜筋ストレッチの行い方>
1、伸ばしたい方の足を前に出し卍型に足を組む
2、両手をクロスして胸にあてる
3、前に出した足先の方向にゆっくりと倒れる
4、息を吐きながら深く倒す
(足の向きを入れ替えて1−4を繰り返す)
<ストレッチ時のポイント>
・骨盤帯が前を向いている状態が正しいポジション
・息を吸う時には腹斜筋が伸びていることを感じ、吐き出す時にゆっくりと動かす
・呼吸を常に意識しながら、ゆっくりとした動作で取り組む
関連リンク:腹筋ストレッチは筋トレと組み合わせれば効果アップ!
正月太りなんて吹き飛ばせ!今年こそシックスパックに
年末年始のイベントでやや肉の重みが増した下腹に焦っている読者も、正しい知識とフォームでトレーニングに臨めば今年こそは憧れのシックスパックも夢ではない。
今すぐトレーニングを始めて、季節が冬から春に変わる頃には凹凸のある腹筋を鏡で見るのが楽しくて仕方なくなる、そんな変化に乞うご期待だ。
Text by Naoko Takeda