米大リーグの球団幹部や代理人が一堂に会するウインターミーティングが8日(日本時間9日)に米フロリダ州オーランドで開幕。10日(日本時間11日)の3日目までにカイル・シュワバー外野手(32)=フィリーズ再契約、エドウィン・ディアス投手(31)=メッツ→ドジャース、ピート・アロンソ内野手(31)=メッツ→オリオールズ=と大物選手の契約が次々とまとまっている。
西武からポスティングシステムを利用してのメジャー移籍を目指す今井達也投手(27)は、総額9桁=1億ドル(155億7900万円)を超える規模の契約になると見られ、資金力に余裕のある球団以外は手が出せない案件となっている。ヤンキース、メッツ、フィリーズ、カブス、レッドソックスなど限られた球団にどのように競わせ、好条件を引き出すのか? 代理人のスコット・ボラス氏(73)の手腕に注目しながら見ていくと面白そうだ。
すでに脱落・撤退が濃厚の西海岸勢
「ああいうチーム(ドジャース)に勝ってワールドチャンピオンになるのが自分にとって一番価値がある」
今井は2年連続でワールドシリーズを制したドジャースに入団するのではなく、倒す側に回ることを宣言している。現実的に、ド軍は資金力は十分だが、先発投手もそろっており、無理に今井を獲りに行く状況にない。では、パドレス、ジャイアンツと同じナ・リーグ西地区のライバル球団はどうだろうか?
パドレスはダルビッシュ有投手(39)の来季全休が確定しており、先発投手を補強したいところではあるが、資金面で苦しい。仮に今井を獲得するのであれば、主力を放出せざるを得ない状況に追い込まれてしまう。ジャイアンツはお金がないわけではないが、大枚をはたいて投手を補強することはしない方針の球団で、こちらも考えにくい。今井争奪戦に参戦するのは主に東のチームとみていいだろう。
先発投手補強済みのRソックス、Bジェイズも撤退モード
東地区の球団の中でもソニー・グレイ投手(36)を獲得したレッドソックス、コディ・ポンセ投手(31)を獲得したブルージェイズは無理して今井の獲得に動く必要はなくなった。シュワバーとの再契約に1億5000万ドル(約233億8455万円)を投じたフィリーズもさらにここからもう1億ドルを投資できる状況ではない。ヤンキース、メッツのニューヨーク勢とカブスの3球団に候補は絞られつつある。
「欲しい欲しいモード」に突入しているNY2球団
そんな中、何が何でも今井を欲しているのは、メッツとヤンキースのニューヨーク勢だ。圧倒的な資金力を持ちながら、メッツはディアスに続き、アロンソも失った。ディアスとアロンソが結んだ新契約はメッツに出せない金額のものでもなかった。今季、たった1勝が足りずにポストシーズン進出を逃したことで「勝てない球団」と見切りをつけられ、出ていかれてしまった格好だ。この状況を打開するには、新戦力を獲得するしかない。今井はメッツにとってのトップターゲットとなり、ボラス氏から見ればメッツオーナーのスティーブ・コーエン氏の財布がトップターゲットになった。
好条件を引き出すには、獲得候補となる球団同士を競わせる必要がある。メッツの競争相手となるのがヤンキースだ。ヤ軍はウインターミーティング3日目までに目立った動きを見せておらず、明らかに大きな契約に備えた立ち回りをしている。これは今井とは無関係ではなさそうだ。
田中将大以降、日本選手が獲れていない状況は放置できないヤ軍
ヤンキースは日本選手を強く欲している。ブライアン・キャッシュマンGMが最後に日本選手の獲得に成功したのは2014年の田中将大の例までさかのぼる。今やNPBからの戦力補強は、ドラフト、MLB球団間のトレード、FAに次ぐ、重要な戦力補強のルートのひとつだ。名門ヤ軍としては11年も日本選手が獲得できていない状況を放っておくわけにはいかない。
田中や松井秀喜、伊良部秀輝はMLBに移籍するためではなく、ピンストライプのユニホームを着るために海を渡ってきた。球団のブランド力が戦力補強を有利にしてきたことはキャッシュマンGM自身がいちばんよく知っている。
令和の日本の野球少年のあこがれの対象が「NY」のロゴから「LA」のロゴに移っている今、これ以上日本選手にフラれるわけにはいかない。今井の獲得は単なる戦力補強ではなく、日本市場や球団のブランド力をかけた戦いになる。今井もしくは、村上宗隆、岡本和真のうち1人の獲得に成功することがこのオフのキャッシュマンGMのミッションと言っていい。
ニューヨーク勢2球団に加え、今井獲得に大金をつぎ込むとしたらカブスだ。こちらは今永昇太投手(32)がクオリファイング・オファー(QO)を受諾しての残留を選択したことで状況が複雑になった。来季の先発ローテに今永は残っても、QOは単年契約のため、27年に先発投手の補強が必ず必要になってくる。メッツ、ヤンキースほど切迫した状況ではないが、獲れるのであれば今井が欲しいのは間違いない。
今永と鈴木が在籍しており、日本選手が溶け込みやすい球団であり、メディアの厳しさもニューヨークほどではない。春季キャンプ地もメッツとヤンキースがフロリダなのに対し、カブスはアリゾナで、メジャー1年目の日本選手に優しい環境を用意できるという点ではカブスに軍配が上がる。
高く売りつけるのが代理人の仕事ではない
ここで肝になるのは切迫度だ。今井を強く必要としているのはカブスよりメッツ、ヤンキースの方だ。代理人の仕事は決して球団から大金を巻き上げることではない。選手に最高の環境を用意すると同時に、球団には欲しい戦力を提供することも大切な仕事だ。好条件を引き出すことは「メッツやヤンキースの足元を見て今井を高く売りつける」のではなく、「より強く必要としている球団に今井を届ける」こと。これがボラス氏のミッションだ。
こう考えると今井の獲得が単なる戦力の補強ではない状況にあるヤンキースが第1候補となってきそうだ。

