現在放送中のNHK連続テレビ小説「ばけばけ」(総合ほか)で、ヒロイン松野トキ(髙石あかり)を出産した雨清水タエを好演している女優の北川景子。松江随一の名家に生まれ、大勢の女中に囲まれて何不自由なく育ったタエは、夫の傳(堤真一)が営んでいた織物工場の経営難と傳の急死によって没落し、物乞いの身となった。
その現状を知ったトキは、雨清水家の三男で実弟でもある三之丞(板垣李光人)に、レフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の女中として稼いだ給金20円の半分を毎月渡し、2人の生活を援助。三之丞はタエに「社長になった」とウソをつき、タエもその言葉を信じていた。
第14週、トキとヘブンの結婚が決まるなか、第70回(9日放送)で、ヘブンと親族の顔合わせの席が設けられ、タエと三之丞も同席。その場で三之丞がこれまでついてきたウソを打ち明け、タエもそれを受け入れた。雨清水家の2人が大きな一歩を踏み出したこの場面。北川は「三之丞に『恥さらしのひどい息子だ』と言わせてしまったと思うと非常に胸が締め付けられる思いでしたが、タエと三之丞の間にあった大きな溝が埋められて、本当に良かった」と振り返った。
朝ドラ「ばけばけ」とは?
松江の没落士族の娘、小泉セツと、その夫で作家のラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルとした物語。島根や熊本などを舞台に、怪談を愛し、何気ない日常を歩んでいく夫婦の姿をフィクションとして描く。脚本は「バイプレイヤーズ」(テレビ東京)や「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」(総合)などで知られるふじきみつ彦氏。主題歌「笑ったり転んだり」をハンバート ハンバートが歌う。
北川景子 Q&A
Q1 結婚のあいさつパーティーでヘブンに会ったタエはどんな気持ちだったのでしょうか?
「トキがうそをついているとヘブンさんがわめき散らした時は、なぜ突然やってきた外国の人にそんなことを言われなくてはならないのか、少し釈然としない気持ちに。みんながそろっている場でトキを激昂させなくてもいいのではないかと少し可哀想に思いましたし、こんな風に泣かせる男性が本当にトキを幸せにできるのか半信半疑でした。けれども、松野のご両親は結婚を認めていて、トキ自身も彼と幸せになりたがっているわけですから祝福するのが筋。兎にも角にも応援するしかないと思っていたんです。
そして最終的には、バンっと不満を爆発させてみんながひとつになるきっかけを作ったヘブンという得体の知れない異人のことを、面白い男だと思えたのではないでしょうか。いろんなことが一度に起きた目まぐるしいシーンでした」
Q2 パーティーでの三之丞への思いは?
「『人に使われるのではなく、人を使う人間になりなさい』とは以前に三之丞にかけた言葉だと思いますが、タエ自身はそういう古い凝り固まった考え方をとっくに捨てています。“雨清水タエ”は一度死んだつもりで物乞いまでして息子を生かしてきたのに、自分の一言がここまで彼の中に残り続け、追い詰めていたのかと責任を感じました。
タエとしては今も昔も一貫して息子を大事にしているつもりなんです。没落前は三男だから家を継ぐプレッシャーを背負わずに自由に生きてくれればいいと思っていましたし、没落後は自分が父親代わりも務めて大事な息子を何とか生かしてきました。三之丞のうそを承知の上で指摘しなかったのも、彼のプライドを傷つけたら立ち上がることができない人間になってしまうと思っていたから。今はまだうそを暴かず、息子に成長する時間と猶予を与えたいと考えていたと思います。それなのにパーティーで三之丞から恥さらしのひどい息子だと聞いた時は、こんな言葉を言わせてしまったと非常に胸が締め付けられる思いでした。みんなの前で言わせてしまいましたが、それまでタエと三之丞の間にあった大きな溝が埋められて本当に良かったです」
Q3 トキの育ての母、フミ(池脇千鶴)との関係の変化をどのような思いで演じましたか?
「タエは基本的なスタンスとして、自分も母親だと主張するのは司之介さん(岡部たか)とフミさんに非常に失礼なことで、トキは松野家に出したと娘だと割り切らなくてはいけないと考えてきました。ただ、トキは育ての親と産みの親の間でずっとしんどい思いをしてきたでしょうね。今まで育ての親としての立場をはっきりさせたがっていたフミさんが、トキのためにもどちらも親ということでいいんじゃないかと言ってくれたおかげで、タエも一つ解放されたと思います。
これまではトキと一緒に料理をしていても笑みがこぼれてはいけないと自分を律してきたけれども、娘がかわいくてうれしいとか一緒にいて楽しいといった素直な感情まで押し込める必要はなくなりました。フミさんにありがとうと伝えられ、タエとフミの雪解けが見られるシーンになったと思います」
Q4 トキにママさんと呼ばれたタエはどんなふうに受け止めたのでしょうか?
「タエにとって『ママ』は初めて聞く言葉。横文字なので、娘が外国の人と結婚するという事実を突きつけられたような非常に複雑な気持ちになりました。けれど、トキがうそをついたり家族の事情を抱え込んでいたことに気づいて、真っ向から受け止めてくれたのは異人であるヘブン。それがあの場で分かったので、横文字で『ママさん』と呼ばれるのも悪くないと思えたのではないでしょうか。タエは武家の人間ですが、短い時間で自分の中で折り合いをつけ、こんな家族があってもいいと納得できる柔軟さも持っているのだと思います。おフミさんがいるのに『母上』と呼ばれるのも少し違う気がしますから、『ママさん』がちょうどいいのかもしれませんね。
言葉は『ママさん』でも、トキにとってはきっと『母上』と言えたのと同じ。長年言いたかった言葉をお母さん(フミ)の顔色を気にせず堂々と言えた、すごくすっきりしたシーンだったと思います。タエとしてはここに夫の傳がいたらどんなによかったかと思いました。いつかトキと本当の親子として振る舞える日を夢見ていた傳。ここにいたら『パパさん』と言われていたのではないでしょうか」

