家庭の悩みを打ち明け合う中で、拓也と距離を縮めていった経緯を里奈から打ち明けられた、奈緒。“あなたはわるくない”という共感が、2人を特別な存在へと変えていった。
「不倫は絶対ダメ」忠告したけど…
「……ダメだよ、里奈」
電話口で、私ははっきりと言った。
「不倫は……絶対ダメ!」
自分でも、少し強い口調だったと思う。里奈はしばらくだまったあと、小さく笑った。
「分かってるよ」
でも、その“分かってる”は、どこかたよりなく聞こえた。
「気になりはしたけど…別に何もしてないし。連絡もそんな頻繁(ひんぱん)じゃないし…向こうから話しかけてくるのに乗っかるだけ」
──向こうから。
その言い方が引っかかった。
「でもさ、拓也が言うんだよ?"里奈と話してると落ち着く"って。"救われてる"って…」
その言葉は、まるで、自分が必要とされている証を、大事ににぎりしめているみたいだった。
「奈緒はさ…だれかにそんなふうに言われたら、何も思わない?」
ずるい質問だと思った。思わないわけがない。
でも──
「だからこそ、危ないんだよ……」
私は静かに言った。里奈はそれ以上、反論しなかった。けれど、納得もしていなかった。その“煮え切らなさ”が、妙に胸に残った。
ついに訪れた“修羅場”
数週間後。夜おそく、里奈から着信があった。出た瞬間、彼女は泣き声だった。
「奈緒……やばい」
私は、里奈を落ち着かせながら話を聞いた。すると、次第に彼女の涙の理由が明らかになり、私は戦慄した。それは、私が想像していた“わるい展開”だった。
里奈はその日、拓也にメッセージを送っていた。
「今日もまた夫に否定された」「私、そんなにダメかな……?」「あなたと話してると救われる」
いつもの、なんてことない弱音だった。しかし、それを拓也の妻に見られたのだ。
拓也がお風呂に入っている間、テーブルに置いてあったスマホ。通知に表示された、里奈の名前。そして、内容の一部…。
里奈はふるえながら話す。
「拓也の奥さんから電話がきたの……」
拓也の携帯からだった。拓也かと思って胸を弾ませながら出ると、怒りが込められた女性の低い声が、冷たく、耳を刺すように聞こえてきたという。
「あなた、うちの主人とどういう関係ですか?」
一気に血の気が引いたらしい。
「……友だちです」
それしか言えなかった。実際、不貞の事実はない。子ども抜きで、2人きりで会ったこともない。でも、“ただの友だち”と言い切るには、少しだけ、後ろめたさがあった。
拓也の妻はどならなかったらしいが、とても冷たかったという。
「既婚者同士ですよね?家庭があるの、わかってますよね?」
淡々と正論を突きつけられ、里奈は何度もあやまった。
「誤解させるようなやり取りでした。もう連絡は控えます」
そうして、その場はなんとか収まった。
拓也も「誤解だ」と奥さんに説明し、ひとまず、夫婦の間でもこの一件は収まったらしい。

