急性大動脈解離には、遺伝的な要因や生まれつきの体質が関与することもあります。マルファン症候群などの遺伝性疾患や、二尖大動脈弁といった先天性の異常を持つ方では、若年でもリスクが高まる場合があります。本記事では、年齢や性別によるリスクの違い、高血圧や生活習慣病を持つ方の注意点、既往歴や家族歴から見るリスク評価について詳しく解説します。

監修医師:
後平泰信(医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院)
2009年に旭川医科大学医学部を卒業。循環器内科のスペシャリストとして、長年、札幌東徳洲会病院を中心に救急医療や心疾患の治療に従事。2023年には睡眠・無呼吸・遠隔医療センター長を歴任し、最新技術を用いた診療体制の構築に尽力。2024年より病院長に就任し、2025年10月の「札幌もいわ徳洲会病院」への名称変更。日本循環器学会 認定循環器専門医。日本睡眠学会 総合専門医・指導医。日本スポーツ協会公認 スポーツドクター。日本内科学会 認定内科医。
遺伝的要因と血管の構造異常
急性大動脈解離には、生まれつきの体質や遺伝的な要因が関与することもあります。特定の疾患を持つ方では、若年であってもリスクが高まる場合があります。
マルファン症候群などの遺伝性疾患
マルファン症候群は、結合組織の異常を特徴とする遺伝性疾患です。この病気では、血管壁を構成するタンパク質の一つであるフィブリリンに異常が生じ、大動脈の壁が脆弱になります。そのため、若年であっても急性大動脈解離を発症するリスクが高くなります。通常は中高年に多い病気ですが、この疾患を持つ方では20代や30代でも発症する可能性があります。
マルファン症候群の患者さんでは、大動脈が徐々に拡張する大動脈瘤を合併することが多く、これが解離の前段階となる場合があります。定期的な画像検査で大動脈の状態を監視し、必要に応じて予防的な手術を行うことで、急性大動脈解離の発症を防ぐことができます。早期発見と計画的な治療介入により、突然の発症を回避することが可能です。
この他にも、エーラス・ダンロス症候群やロイス・ディーツ症候群といった遺伝性結合組織疾患が、急性大動脈解離のリスクを高めることが知られています。家族歴がある場合や、特徴的な身体所見がある場合には、専門の医師による評価を受けることが推奨されます。
二尖大動脈弁と大動脈の脆弱性
二尖大動脈弁は、通常3枚ある大動脈弁が2枚しかない先天性の異常です。この状態では、心臓から送り出される血流が大動脈の壁に不均一な圧力をかけるため、血管壁にストレスが集中しやすくなります。その結果、上行大動脈が拡張し、解離のリスクが高まります。血流の乱れが慢性的に血管壁を傷つけることで、徐々に脆弱性が増していきます。
二尖大動脈弁は比較的頻度の高い先天異常で、多くの方は無症状のまま経過します。しかし、定期的な検査で大動脈の拡張がないかを確認することが重要です。拡張が進行している場合には、予防的な外科治療が検討されることもあります。無症状であっても、定期的な経過観察を続けることで、重大な合併症を未然に防ぐことができます。
また、二尖大動脈弁を持つ方では、感染性心内膜炎のリスクも高まることが知られています。口腔内の衛生管理や、歯科治療時の予防的な抗菌薬投与などの対策も必要です。総合的な健康管理により、複数のリスクを同時に低減させることが可能です。
急性大動脈解離になりやすい人の特徴
急性大動脈解離のリスクが高い方には、いくつかの共通した特徴があります。年齢や性別、既往歴などの要因を理解することで、自身のリスクを評価できます。
年齢と性別によるリスクの違い
急性大動脈解離は、年齢とともに発症リスクが上昇する傾向があります。特に、60歳から70歳代の方に多く見られ、これは加齢に伴う血管の劣化が主な理由です。長年にわたる高血圧や動脈硬化の影響が蓄積し、血管壁が脆くなることで解離が起こりやすくなります。ただし、これは統計的な傾向であり、個人差があることに留意が必要です。
性別では、男性の方が女性よりも発症頻度が高いことが報告されています。これは、男性に高血圧や喫煙習慣を持つ方が多いことが一因と考えられています。また、女性では妊娠中や出産後に発症するケースもあり、ホルモンの変化や血行動態の変動が関与していると考えられています。妊娠期間中は血管に特有の負荷がかかるため、特定の条件下ではリスクが高まることがあります。
ただし、若年者であっても遺伝性疾患や先天性の血管異常がある場合には、急性大動脈解離を発症する可能性があります。年齢に関わらず、リスク因子を持つ方は注意が必要です。
高血圧と生活習慣病を持つ方
高血圧は急性大動脈解離における重要なリスク因子です。血圧が高い状態が続くと、大動脈の壁に常に強い負荷がかかり、内膜の損傷が進みます。特に、収縮期血圧が140mmHg以上の状態が長期間続いている方では、リスクが高まります。治療を受けていても血圧のコントロールが不十分な場合には、同様にリスクが存在します。
糖尿病、脂質異常症、肥満といった生活習慣病も、動脈硬化を促進することで間接的に急性大動脈解離のリスクを高めます。これらの疾患が複数重なると、血管へのダメージは相乗的に増加します。また、喫煙習慣は血管内皮を直接傷つけるため、非常に強いリスク因子となります。1日の喫煙本数や喫煙年数が多いほど、リスクは高まる傾向があります。
生活習慣病の管理が不十分な方、特に自覚症状がないために治療を中断してしまった方では、知らず知らずのうちに血管の劣化が進行している可能性があります。定期的な健康診断を受け、適切な治療を続けることが重要です。

