「言い逃れできないのでは」「最初に潔くごめんなさいと認めていれば」。SNSではそんな声も聞こえてくる。
静岡県伊東市の田久保真紀前市長が3月30日、有印私文書偽造・同行使と地方自治法違反の罪で在宅起訴された。大学を卒業していないにもかかわらず、卒業証書を偽造し、市議会の議長や副議長に見せた疑いなどが持たれている。
報道によると、偽造にあたっては、インターネットで東洋大学の学長や法学部長名の印鑑を注文していたとみられる。しかも、市職員から卒業証書の提出を求められた“直後”に発注していたという。
SNSなどでは「言い逃れできないのでは」「最初に潔くごめんなさいと認めていれば」といった声が相次ぎ、あきれ気味の反応が少なくない。
たしかに一般的な感覚からすれば、「学長や法学部長の印鑑を注文していた」という事実があれば、“決定的証拠”のように思える。だが、法的にはどう評価されるのだろうか。
元検事で、捜査に詳しい西山晴基弁護士に聞いた。
●「決定的証拠」といえるのか
──学長や法学部長の印鑑を注文していたことが事実であれば、「決定的証拠」と評価されうるのでしょうか。
報道を踏まえて、卒業証書などの提出を求められた“直後”に発注していたというタイミングも考えると、卒業証書を偽造するための道具を準備していたこと、つまり偽造の目的があったことを強く推認させる事情といえます。
その意味では、在宅起訴に踏み切るうえでの大きな判断材料、いわば「決め手」の一つになった可能性は高いでしょう。
刑法上の「偽造」と評価するには「他人名義を無断で利用した文書を作成した」といえなければなりません。
つまり、大学名や学長名などを使わず、単に“卒業証書っぽいもの”を作っただけでは、有印私文書偽造罪は成立しないのです。
これまでの報道では、田久保氏が東洋大学を卒業していないにもかかわらず、市議会議長らに卒業証書とされる書類を“チラ見せ”していたことが明らかになっていました。
ただ、それだけでは「本当に他人名義を使ったのか」という核心部分の立証としては弱い面もあります。
そこで捜査機関としては、公判で「偽造(他人名義を無断利用)まではしていない」「それっぽい書類を見せただけだ」という反論が出ることを見据え、証拠固めをしておく必要がありました。本来であれば、偽造された卒業証書自体が“決定的証拠”となるはずです。
今回報道されている印鑑の発注は、まさに他人名義を無断利用するための準備行為といえます。通常、そのような目的がなければ、わざわざするものとはいえません。
そのため、卒業証書自体を押収できていない状況でも、捜査機関は罪に問えると判断し、起訴に踏み切るに至ったのではないかと思われます。
●「チラ見せだからセーフ」は通るのか
──田久保氏は否認していると報じられています。どのような弁解が考えられますか。
印鑑の発注が事実だった場合、経歴詐称そのものを争うのは、さらに難しくなったと考えられます。
それでも偽造について争うのであれば「印鑑は発注したが、実際にそれを使って学長名などを無断利用するところまでは至っていない」といった主張が想定されます。
また、「市議会議長らに見せたのは、あくまで卒業証書っぽいものにすぎず、だからこそチラ見せにとどめた」という説明も考えられるでしょう。

