父が軽度の認知症と診断されたのは、70代後半のころでした。昼間は普通に会話ができ、身の回りのこともある程度は自分でこなしていたため、家族の多くは「まだ大丈夫だろう」とどこかで思っていたのだと思います。私自身も、介護が本格的に必要になるのはまだ先のことだろうと考えていました。しかし、その認識が大きく揺らぐ出来事が、ある冬の深夜に起こりました。
深夜の物音と、消えていた父の姿
ある冬の深夜、玄関のほうから物音がして目が覚めました。胸騒ぎがして様子を見に行くと、家の中に父の姿がなく、玄関を見ると外履きもなくなっていました。
慌てて家族を起こし、近所を手分けして探しました。しかし、いくら周囲を見回っても父は見つかりません。寒い夜だったこともあり、不安と焦りで胸が締め付けられるような思いでした。どうしていいのかわからず、最終的に警察へ連絡しました。
数駅離れた場所で保護されていた父
しばらくして、警察から連絡が入りました。父は自宅から数駅離れた場所で保護されているとのことでした。
事情を聞くと、父は「昔の職場に行かなければならない」と思い込み、電車に乗って移動していたそうです。私たちにとっては突然の出来事でしたが、父の中では過去の記憶が強くよみがえっていたのかもしれません。
寒さの中をひとりで歩いていた父の姿を想像すると、衝撃と同時に、自分たちの認識が甘かったのではないかという思いが強く残りました。

