海外に駐在すると公的年金はどうなる?
海外に駐在する場合、原則として「勤務地」と「日本」の両方の社会保障制度に加入し、保険料を二重に支払わなければならないリスクがあります。
これを防ぎ、駐在員の経済的損失を最小限に抑えるために、国同士が結んでいるのが「社会保障協定」です。
以下では、この協定が駐在生活にどう影響するかを詳しく解説していきます。
社会保障協定とは〜年金制度の二重加入を防ぎ、受給権を得る仕組み〜
国際的な活動が増加する現代、海外勤務時の社会保障料の「二重払い」は大きな負担です。
さらに、年金を受け取るには「一定期間の加入」が必要なため、数年間の駐在中に支払った保険料が掛け捨てになってしまう懸念もあります。
これらの問題を解決するため、社会保障協定は次の2つの目的で運用されています。
1. 保険料の二重負担を避ける:どちらか一方の制度にのみ加入するように調整し、手取り額の減少を防ぐ
2. 年金受給資格を得やすくする:二国間の加入期間を合計(期間通算)し、将来必ず年金を受け取れるようにする
ただし、協定の内容は相手国によって異なるため、2026年現在の最新状況を正しく把握することが重要です。
社会保障協定発効済みの国に駐在するケース
2026年3月現在、日本と社会保障協定を発効している主な国は以下の通りです。
・ドイツ
・英国
・韓国
・アメリカ
・ベルギー
・フランス
・カナダ
・オーストラリア
・オランダ
・チェコ
・スペイン
・アイルランド
・ブラジル
・スイス
・ハンガリー
・インド
・ルクセンブルク
・フィリピン
・スロバキア
・中国
・フィンランド
・スウェーデン
・イタリア(2024年4月発効)
・オーストリア(2025年12月発効)
特に注目すべき変更点は、2024年4月から「日・イタリア社会保障協定」が、2025年12月から「日・オーストリア社会保障協定」が発効(スタート)した点です。
イタリアとオーストリアの駐在員も5年以内であれば、現地の社会保障料支払いが免除されるようになりました。
5年以内の「一時派遣」について
上記のように、協定国へ5年以内の予定で駐在する場合、事前に「適用証明書」を取得することで、駐在先の年金制度への加入が免除されます。
つまり、日本の厚生年金にのみ加入し続ける形でOKになります。
【注意点】
健康保険や国民年金、雇用保険の扱いは国ごとに細かく異なるため、渡航前に勤務先の担当部署へ「どの保険が免除対象か」を必ず確認してください。
5年以上の「長期滞在」の場合
5年を超える長期駐在や現地採用の場合、日本の厚生年金からは外れ、駐在先の年金制度にのみ加入するのが原則です。
この際、駐在先での加入期間を日本での期間としてカウントする「期間通算」が適用されますが、日本の年金額自体が増えるわけではない点に注意が必要です。
一方で、駐在先の年金制度においては期間通算の恩恵を受けられます。
たとえば、アメリカで老齢年金を受給するには「10年」の加入が必要です。
6年間アメリカで働き、残りの34年間は日本で年金を支払っていたと仮定すると、日本での34年とアメリカでの6年を合わせて、アメリカの年金制度でも40年として扱われます。
これでアメリカの受給資格(10年)をクリアでき、結果としてアメリカから「6年分」の年金が一生涯支給されるのです。
このように、期間通算を正しく利用すれば、短期間の拠出でも将来の「プラスアルファの収入」としてアメリカの年金を確保できます。
【注意点】
ただし、イギリス、韓国、中国、イタリアとの協定には「期間通算」の条項が含まれていないため、これらの国では社会保障協定は保険料の二重払い防止がメインのメリットとなります。
社会保障協定未発効の国に駐在するケース
協定が結ばれていない国に駐在する場合、日本の社会保険に加入したまま、現地の社会保障制度にも加入する「二重払い」が原則となります。
この場合、日本の国民年金に「任意加入」するかどうかを選択することになります。
2026年度(令和8年度)の国民年金保険料は月額17,920円です。
日本にいて年金を支払うケースと同じく、「2年前納」による割引(2年間で約1.7万円の節約)を活用して、なるべく支払コストを抑えるのもひとつの賢い選択です。
駐在期間にアメリカの年金に加入したケース
ここからは、具体的にアメリカに駐在し、現地の年金制度(OASDI)に加入した場合の詳細を見ていきましょう。
アメリカの年金制度(OASDI)
アメリカの公的年金は「OASDI」と呼ばれ、労働者が支払う「社会保障税」によって運営されています。
・税率:12.4%(従業員と雇用主で6.2%ずつ折半)
・加入条件:従業員、または年換算の純利益が400ドル以上の自営業者であること
日本の厚生年金と同様に、給与から自動的に天引きされます。失業期間中に支払いを継続する義務がない点は、日本の国民年金と異なる大きな特長です。
アメリカの年金が受け取れる条件
長期駐在や現地採用でアメリカの制度に加入した場合、以下の要件を満たせば将来「退職年金」を受け取れます。
1. 米国での加入期間が1年半(6クレジット)以上あること
2. 日本とアメリカの加入期間が合算して10年(40クレジット)以上あること
3. 原則67歳以上であること(1960年以降生まれの場合)
【2026年最新のクレジットの数値について】
アメリカの受給資格を左右する「クレジット」は、収入額に応じて決まります。
2026年現在、1クレジットを取得するために必要な収入は1,890ドルです。
駐在の開始・終了時期によっては、あと数百ドルの収入があるだけで1クレジット(日本の3ヶ月分相当)を積み増せる可能性があるため、帰国直前の給与額やタイミングを意識することは、将来の受給権を守る具体的なメリットにつながります。
年金額はいくらもらえる?
「いくらもらえるか」は、現役時代の平均収入や拠出期間によって複雑に計算されます。
かつては簡易的な計算式が使われることもありましたが、為替や物価スライド(COLA)の影響を強く受けるため、現在は公式のシミュレーターを活用するのが最も正確で有益です。
【具体的なやり方】
米国社会保障局(SSA)の公式サイトにある「my Social Security」でアカウントを作成してください。
その後オンラインで、ドル建てで「今現在の自分の実績に基づいた将来の予想受給額」を確認できます。
駐在中の収入を反映したリアルな数字を知ることで、老後の資金計画の精度を高めることが可能です。
※配偶者についても受給者の50%相当額を受け取れる規定があり、世帯単位での受給戦略が立てられます。
年金受給のために必要な手続き
アメリカの年金を受け取るには、日本の年金事務所を通じて手続きを行う必要があります。
・必要書類:
専用申請書(米国年金申請に係る書類・様式SSA-1、SSA-21など)、戸籍謄本、戸籍抄本またはパスポート(有効期限内)のコピー、基礎年金番号通知書(年金手帳含む)または年金証書の写し、ソーシャルセキュリティカード(SSC)など被保険者および配偶者の合衆国社会保障番号を確認することができるもののコピー
※共済組合員などの期間がある場合は、加入者番号を確認することができるもの(組合員証)の写しも必要
・その後の手続き(米国で働いた期間が10年以上の方):
米国大使館領事部の連邦年金課へ直接ご連絡ください
・その後の手続き(米国で働いた期間が10年以下かつ日米年金協定で、米国年金の資格があると思われる方):
最寄りの年金事務所などで「合衆国年金の請求申出書」と「米国年金申請に必要な書類(署名済みの様式SSA-1、SSA-21等)」を提出します
【注意】
SSA申請書類の記入方法についてのお問い合わせはお控えください。
社会保障番号を含め、不明な箇所は空欄のまま、または「?」を記入し、ご提出ください。
記入方法以外の米国年金に関するお問い合わせは、直接米国大使館領事部の連邦年金課へお問い合わせください。
ソーシャルセキュリティカード(SSC)にあるソーシャル・セキュリティー・ナンバー(SSN、社会保障番号)は受給に必須です。
駐在終了後もSSNのカードや番号の控えは必ず大切に保管しておいてください。
もし紛失した場合は、米国大使館での再発行手続きが必要になり、受給開始までに多大な時間を要するリスクがあります。

