累計300万部を誇る押見修造さんのカリスマ的コミック「惡の華」が、鈴木福とあので実写ドラマ化される。本作でクラスの異端児、仲村佐和を演じるのが、アーティストやタレントとして唯一無二の存在感を放つあの。このドラマが地上波ドラマ初主演作となる。(取材・文:磯部正和)
自身と重なる「仲村佐和」の存在
閉塞感に満ちた地方都市を舞台に、鬱屈とした青春と行き場のない衝動を描いた原作コミック。ボードレールに傾倒する中学生の春日高男(鈴木福)は、放課後の教室で憧れの女子の体操着を盗んでしまう。その現場を目撃した佐和に脅された春日高男が奇妙な主従関係の元、ある契約を結ばされる。
あのは、オファーを受けた当時をこう振り返る。
「まさかという感じでした。すでにアニメや映画になっている作品なので、新たにドラマ化されるとも、自分にオファーが来るとも思っていませんでした。純粋にうれしかったです」
以前から原作に触れ、「出会ってしまった」とコメントするほど衝撃を受けていた。世間との関わりに悩んでいた時期に手にした一冊は、自身にとって切実な響きを持っていたという。
「当時はあまり漫画を読んでいませんでしたが、毎日悶々(もんもん)としていて、何かから逃げつつもどこかで立ち向かっているような感覚がありました。周りが異常に見える中で、学校や仕事で人と関わらなければならない。そんな時期に勧められて読んでみたら、描かれている世界が他人事とは思えませんでした。ファンタジーではなく、ぶっ飛んでいるようでいてすべてがリアルに感じられ、とても衝撃を受けました」
思い入れがある分、役と同化しすぎる危険もあるが、自身と役の境界線を冷静に見つめた。
「思い入れがある分、本気でぶつからなければいけないという覚悟はありました。とはいえ、仲村佐和とぼくは違う人間です。そこを履き違えないように、役をしっかりとかみ砕く作業を重ねて挑みました」
実際に演じることで、人物像が立体的になった。冷酷な言動の裏にある複雑な温度感にも気づいたという。
「仲村佐和は優しい人間なんだなと気づきました。読者の頃はそこまで思いませんでしたが、演じてみると春日に対してすごく期待しているんです。突き放すイメージの強いキャラクターですが、その裏には悲しみや孤独があります。単なる『優しさ』という言葉では誤解を生むかもしれませんが、春日に正面から向き合い、希望を抱いてしまっている部分に彼女なりの優しさを感じました」
鈴木福から学んだこと
井口昇監督の撮影現場では、独自の要求が次々と出された。
「基本はお任せでしたが、動きについての指導はしっかりありました。アクションのビジョンが明確で、監督自身が声に出して実演してくれるんです。ただ、それがだれにも真似できないような動きで、『これをやるんですか?』と毎回驚かされるのが面白かったですね。監督の頭の中にある奇妙な映像世界が、この漫画のトーンにとても合っていると感じました」
強烈なセリフについては、役者の感性に委ねられ、対象によって熱量を調整したという。
「場面によって熱量が違うんですよね。彼女は基本的に春日以外をモブとして扱っているので、学校の先生や周囲に向ける『クソムシ』は、強い怒りをぶつけているわけではありません。周りがすべてクソムシに見える退屈で絶望的な世界で、唯一の変態である春日を見つけ、ワクワクし始めている。彼に対して放つ暴言とは明らかに温度差があるので、その違いを出せるように意識しました」
鈴木のエネルギーも、自身の芝居を引き上げた。
「春日が内に秘めているエネルギーの強さが、福くんの演技からしっかりと伝わってきました。鬱屈とした気持ち悪さのようなものも、お芝居を重ねるごとに引き出されていったので、こちらもそれに呼応するように演じることができ、とてもやりやすかったです」
初主演のプレッシャーもあったが、現場の空気は鈴木の存在に救われた。
「ぼくはもともと陰なタイプなので、それを前面に出してはいけないなと思っていました。そんな中、福くんがムードメーカーとして現場をまとめてくれて、リーダーとして本当に優秀でしたね。共演者のみんなともすぐ仲良くなっていて、素直にすごいなと。ぼくは終盤になってようやく少し話せるようになったくらいだったので、座長としては福くんに背中を見せてもらい、ついていくような形でした」
表現の場が広がるなか、周囲との関わり方も見つめ直している。
「人間としての根本は簡単には変わらないと思いますが、お芝居の現場ではもっと自らコミュニケーションを取っていくべきだと、今回強く実感しました。音楽やバラエティーの現場は、そこまで密に交流しなくても成立してしまう部分があります。でも、お芝居はそうはいきません。人見知りであることを言い訳にして逃げてはいけないなと。自分から歩み寄る努力は続けていきたいです」
続く思春期の感覚「どうしてもその感覚が外れてくれない」
本作のテーマは「不安定な時期の衝動」で、今もその感覚を抱え続けているという。
「かなり長いと思います。自分の中では、ずっと思春期が続いているような感覚がありますね」
その感性とどう向き合うか、常にもがいている。
「自ら望んで持ち続けているというより、どうしてもその感覚が外れてくれない、という表現が近いかもしれません。いつになればこの状態から抜け出して、もう少し楽に生きられるのだろうと思うことはよくあります。感受性をうまく使いこなし、コントロールできるようになりたいと思ってここまで来ましたが、どうしても感情の波が収まらないんです。良い面もある一方で、やはりしんどさを感じることも多いですね」
今回の実写化のポイントは「春日と仲村が本気で向き合い、激しくぶつかり合う取っ組み合いのシーン」だという。
「とにかく徹底的に暴言を吐き捨てています。アニメや映画とはまた違ったアプローチでありながら、原作の空気感を大切に作られた新しい『惡の華』として楽しんでいただけたらうれしいです」

