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強制ではないボランティアとしての「翼賛」|五木寛之,佐藤優

強制ではないボランティアとしての「翼賛」|五木寛之,佐藤優

暴力も食事も平等に与えられた軍隊

佐藤  陸軍にも、ある種の平等性があったと思います。元読売新聞 主筆 ()「ナベツネ」こと渡邉恒雄()(1926年~2024年)さんの回想録を読むと、陸軍時代にぶん殴()られて半殺しの目にあった体験が書かれています。

東京帝国大学出のエリートでも、特別扱いはされない。学歴も何も関係なく、みんな一緒に内務班()(日本陸軍の兵営内で日常生活をする最小組織)に入れられて、訓練という名のリンチを3カ月ほど経験するんですね。だから、みんな平等に殴られる。東大出のエリートを「てめぇ、いうこと聞けねぇのかコラ!」とか怒鳴()りつけながら容赦()なくぶん殴る古年兵()は、きっと気持ちよかったでしょう。

五木  殴られたほうからすると、ずいぶん気の毒な平等性でしょうが(笑)。沖縄に行ったときに、年配の人から「いやぁ、軍隊は良かった」と聞いたことがありますよ。白い飯が腹いっぱい食べられたし、階級はあるけど平等だったというんです。

佐藤  そうそう。東北のほうから来て、「初めて肉の入ったカレーを食べた」とかね。あるいは前線に行くと、牛肉の大和煮()の缶詰が出るんですよ。それを白米と混ぜて食ベるのがうまかったらしいですね。「牛肉の缶詰なんか初めて食った。軍隊はいいな、腹いっぱい食えるから」という話はよく聞きます。殴られるのも平等だけど、食い物も平等に与えられた。貧しい生活しか知らない兵隊にとっては、ありがたい場所だったでしょう。

五木  そういう一面があったのは、たしかだと思います。イデオロギー的に軍国主義を押し付けて「お国のために戦え」というだけでは、うまくいかなかったでしょう。「平等性に基づく人間性の回復」という要素がそこに忍び込んでいたから、軍国主義はポジティブなムーブメントになった。

もちろん、軍隊には軍隊の階級に基づく差別があるんですよ。でも、その新しい差別構造の中で、出自と身分制に基づく差別構造が壊されていった。僕らが中学生のころに「軍隊に入りたい」と思ったのも、そういうところに新しさを感じていたからかもしれません。

ともかく、軍隊にしろ、国防婦人会にしろ、ある種の民草()としての平等性が感じられたからこそ偽りの一体感も生まれたし、庶民は充実感を得られた。きっとナチス・ドイツもそうだったんでしょう。実際には思想の弾圧のようなことも行われていたわけですが、そういう情報のない市民は、張りのある日々を送っていたと思います。

佐藤  だからこそ、自発的に国家を支えたわけですね。

 

※次回は4月14日(火)公開予定です。

配信元: 幻冬舎plus

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