家族による金銭管理の難しさ
ある日、姉が晴斗さんに貯金の状況を問いただしたところ、振り込まれた障害基礎年金を数日のうちに全部使い切っていることが分かったのです。姉としては「将来を考え、少しは貯金するだろう」と思っていただけに、この出来事に大きなショックを受けてしまいました。
晴斗さんに限らず、発達障害がある人の中には、計画的にお金を使うことが苦手な人がいます。さらには、手元にお金があるといつの間にか使ってしまい、「気が付いたらお金がなくなっていた。一体何に使ったのだろう」と本人も不思議に思うケースもあるようです。
「それなら家計簿などで記録を付けて管理すればよいのではないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、「記録を付けることが長続きしない」「記録を付けること自体を忘れてしまう」といったこともあり、なかなか自己管理がうまくいかないようなのです。
「もう弟に任せることはできない」
そう思った姉は、晴斗さんの年金の振込先を姉や親に変更することを考え、年金事務所に問い合わせました。しかし「それはできない」という回答を得ました。
なぜなら公的年金の振込先は「本人名義の口座のみ」となっているからです。たとえ家族であっても、本人名義以外の口座に振り込んでもらうことはできません。
次に姉は成年後見人を付けることも考えました。しかし、その場合は成年後見人に報酬を支払うことになります。当面の目的は「晴斗さんに貯金をしてもらう」ということなので、そこまでのコストを支払うことにはためらいがありました。よって成年後見人は見送ることにしました。
姉が取った最終手段とは?
そこで姉は最終手段に出ることにしました。
それは「晴斗さんの通帳とキャッシュカードを姉が預かる。必要な出費があれば、晴斗さんが姉に事前に申告する。その申告内容をもとに姉がお金を渡すかどうかを判断する」というもの。
そのことを晴斗さんや両親と話し合いました。姉の提案に晴斗さんは不満顔でしたが、しぶしぶ了承しました。
このとき姉は「これでお金を全部使うこともなくなるだろう」と思いました。しかし、この方法でもうまくはいきませんでした。
お金を引き出せなくなった晴斗さんは、スマホのキャリア決済で買い物をするようになってしまったのです。晴斗さんのスマホの通信料金は親が支払っているため、そこでお金を使っていることに気が付きました。
この一件が発覚した後、姉は再び家族会議を開きました。
姉は憤りを隠せない様子で言いました。
「キャリア決済をやめられないなら、あなたのスマホを解約する」
すると、ここでとうとう晴斗さんの怒りが爆発しました。
「スマホを解約するって、ネットも買い物もするなってことかよ! それじゃあ生きている意味ないじゃん。俺の金なんだから、俺が自由に使ってもいいはずだろ。もういい加減にしてくれよ!」
結局、両親からも「それはやり過ぎではないか」ということで理解が得られず、姉の提案は却下されてしまいました。
「将来のための貯金だって言っているのに、なぜ分かってくれないのか…。このようなことになってしまい、本当に申し訳ございません」
姉は私への報告の最後にそのように言いました。
本人が貯金を望まない限り、家族が強制してもなかなかうまくはいかないようです。世の中が便利になっていけばいくほど、家族による金銭管理もさらに難しくなってしまいます。
誰もが納得するような解決策は、今のところ見つかっていないのが現状のようです。
