「ねえ…先生は、美緒ちゃんがシールを持ってきてることに気づかないの?」
すると、ユリが耳元で言いました。
「あのね、美緒ちゃん、おべんとう箱の袋の底にシールをかくして持ってくるの。先生が見てない時に、こっそり見せてくるんだよ」
秋穂は、(確信犯だ)と、思いました。
その数日後、ユリがカバンから一通の封筒を取り出しました。
中には、小さな袋に入った大量のシールが。
「先生がいないスキに、美緒ちゃんにムリやりわたされちゃったの……」
ルールを潜り抜けてまで、押し通す執着心。
秋穂は、この時、これが単なる子どもの遊びではなく、身勝手な親子に翻弄(ほんろう)される泥沼バトルの幕開けになるとは…まだ知る由もありませんでした。
ルールをすり抜ける…異様な執着心
幼稚園の「鉄のルール」があるにも関わらず、大量のシールを持ち込む美緒ちゃん。ユリちゃんは、巻き込まれてしまったのです。
困った秋穂は大ごとにしたくないと考え、美緒ちゃんの祖母が迎えに来る日に、幼稚園の外でこっそりシールを返却。「持ってきちゃダメだよ」と伝え、これで終わると思っていました…。
善意があだに?事実無根のウワサが流れる
「秋穂! 美緒ちゃんママのLINEグループで、あんたが”シールを持ってこないと絶交する”って美緒ちゃんをおどしたトラブルメーカーだって、言いふらされてるよ!」
血の気が引きました。
実はその日、美緒ちゃんは、別の子にもシールをわたそうとしていたそうです。
ですが、かくし持っていたシールが、おべんとう箱の下から見つかり、先生にこっぴどく叱られていたのです。
園から親へ連絡が入り、問い詰められた美緒ちゃんは、おこられるのを恐れて、真っ赤なウソをつきました。
「ユリちゃんに、シールを持ってこないと絶交するって言われたの…。だからこわくて持っていったの…。ユリちゃんママにもね、お迎えの時にそう言われたの…」
自分の娘の執着を知らない美緒ちゃんの母親は、そのウソをうのみにしました。
「あんなに良い子が、ウソをつくはずがないわ。わるいのはユリちゃんママよ!」
こちらの誠意ある対応すら利用し、秋穂親子をわるものに仕立て上げたのです。
美緒ちゃんの言葉を鵜呑みにした母親が、暴走したようです。秋穂とユリちゃんは、親子そろって「脅迫をした」というレッテルを貼られてしまったのです。
こっそりとシールを返却したことが、裏目に出てしまいました。

