がん治療は大きく進歩し、近年は「がんと共に働く」ことも可能な時代になりつつあります。一方で、がんになったとき「今の仕事はどうなるのか」「職場に迷惑をかけるのではないか」という不安が頭をよぎる人もいるでしょう。誰にどう相談してよいか分からず、退職を選択するケースも少なくありません。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO 2026)では、頸部食道がんの再発により喉頭を全摘出した村本高史さんが「働くことは人とのつながりを実感し、自分の存在価値を再確認できる深い喜びがある」とご自身の経験や思いを語りました。村本さんの講演「治療と仕事の両立における医療者とのコミュニケーションの重要性」の内容を再構成してお届けします。
がん再発で喉頭摘出、声を失う覚悟…主治医が教えてくれた「食道発声」との出会い
私の闘病は2009年に声帯の真裏に頸部食道がんが見つかったことから始まります。抗がん剤と放射線治療が予想以上に効き、いったんはがん細胞が消失しました。しかし2011年、同じ場所に再発しました。人事総務部長に就任した直後のことでした。主治医の判断は、「手術するしかない」というものでした。手術では喉頭を全摘しなければなりません。それは声帯も失う、すなわち「声を失う」ことを意味していました。
しかし主治医からその場で「手術するしかないけれど、手術すれば治る可能性はあります。声も食道発声という方法を身につければ、小さい声だけれど出るようになります」という言葉をもらったこともあり、当時の私はショックというよりも「来るものが来ちゃったなあ」という思いでした。
「声が出る可能性もある」―――。私はその言葉を手がかりに、入院前に食道発声教室の見学に行きました。そこで目にしたのは、私と同じ境遇の人々が、再び話すために明るくも懸命に練習している姿でした。その姿に大変感動し、「生きてさえいれば何とかなる」と大きな勇気と希望をもらったことを今でもよく覚えています。
職場復帰前に社内外へ報告。人とのつながりで自分の存在価値を再認識
2012年、手術を乗り越えて復職しました。幸いにも勤め先であるサッポロビールの温かい企業風土や、私自身が人事部門にいて会社の制度を熟知していたという恵まれた環境にあったため、職場復帰はスムーズなほうだったと感じます。
復帰直前、自分の現状と経緯を社内外へ幅広くメールで開示しました。声が出ない以上、自分ががんを患ったことはいずれ知られてしまうため、隠すより開示したほうがよいと考えたのです。結果として150通以上の温かい返信のほか、必要な配慮を得ることもできました。
声が出ない状態で復帰したため仕事への支障はあったものの、仕事に戻ったからこそ気づけたこともあります。働くことには、「対価として報酬を得る」だけでなく、人と関わる中でつながりを実感し、自分の存在価値を再確認できるという深い喜びがある――。私は自身のがん体験を経て、そう実感しました。
しかし現実的には、すべての患者さんが周囲へ病気の経緯を打ち明けられるわけではありません。「自分の病気を開示すると、不利益を受けるのではないか、余計な心配をかけるのでは」という不安や遠慮の気持ちを持つ人もいるでしょう。私ももし、環境に恵まれず主治医からも「食道発声」という助言を得ていなければ、生きること・働くことへの自信を喪失し、食道発声教室にも通わず、勤務先にも相談できず、そのまま退職していたかもしれません。

