背中の痛みは、急性すい炎以外にもさまざまな疾患で見られる症状です。筋骨格系の問題や腎臓疾患、さらには心臓・血管系の緊急疾患との違いを理解しておくことが、適切な対応を取るために欠かせません。このセクションでは、それぞれの疾患との鑑別ポイントを解説します。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
背中の痛みを伴う他の疾患との違い
背中の痛みは、急性すい炎以外にもさまざまな疾患で現れる症状です。適切な診断のためには、他の疾患との違いを理解しておくことが重要です。
筋骨格系の痛みとの区別
背中の痛みの最も一般的な原因は、筋肉や骨格系の問題です。筋肉の緊張や疲労、椎間板の問題などによる痛みは、体を動かしたり特定の姿勢をとったりすることで変化することが特徴です。また、痛みの部位を押すと圧痛があることも、筋骨格系の痛みの典型的な特徴です。一方、急性すい炎による背中の痛みは、体動によってあまり変化せず、持続的な性質を持ちます。また、背中を押しても、筋骨格系の痛みほど明瞭な圧痛点は見つからないことが多いです。急性すい炎では、背中の痛みに加えて上腹部の痛みや消化器症状を伴うことが、筋骨格系の問題との重要な違いとなります。痛みの発症状況や随伴症状を総合的に評価することが、鑑別診断のポイントです。
腎臓疾患による背中の痛み
腎結石や腎盂腎炎(じんうじんえん)といった腎臓の疾患も、背中の痛みを引き起こします。腎結石による痛みは、側腹部から背中にかけて激しい痛みが現れ、波状に強弱を繰り返すことが特徴です。この痛みは疝痛(せんつう)と呼ばれ、結石が尿管を通過する際の痛みとして知られています。腎盂腎炎では、背中の痛みに加えて高熱や排尿時の痛み、頻尿といった症状を伴います。一方、急性すい炎の背中の痛みは、持続的で波状の変化が少なく、痛みの中心は背中の中央部であることが多いです。また、急性すい炎では上腹部の痛みが主症状であり、背中の痛みは放散痛として現れます。尿検査で異常が見られるかどうかも、腎臓疾患との鑑別に有用です。
心臓や血管系の疾患との鑑別
心筋梗塞や大動脈解離といった心血管系の疾患でも、背中の痛みが現れることがあります。これらは生命に関わる緊急疾患であり、迅速な鑑別が必要です。心筋梗塞では、胸の痛みが主症状ですが、背中や肩、顎に痛みが放散することがあります。痛みは圧迫されるような重苦しい感じとして表現されることが多く、冷や汗や呼吸困難を伴うことが特徴です。大動脈解離では、突然の激しい背中の痛みが特徴で、引き裂かれるような痛みと表現されます。これらの疾患では、血圧の異常や脈拍の左右差が見られることがあります。急性すい炎では、心電図や胸部の検査で異常が見られないことが、心血管系疾患との違いとなります。背中の痛みに加えて、胸の症状や循環器系の異常を伴う場合には、直ちに救急受診が必要です。また、胸の痛み・冷や汗・息苦しさを伴う場合は、急性膵炎にこだわらず心筋梗塞・大動脈解離なども疑い、直ちに救急車を呼ぶようにしましょう。
まとめ
急性すい炎は、早期発見と適切な治療により予後が大きく改善される疾患です。初期症状である上腹部痛や背中の痛みを見逃さず、胃痛との違いを理解して、迅速に医療機関を受診することが重要です。特に、アルコールの過剰摂取や胆石などのリスク要因がある方は、症状に注意を払い、定期的な健診を受けることが予防につながります。痛みが強い場合や随伴症状がある場合には、躊躇せず医療機関に相談することをおすすめします。
参考文献
厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 急性膵炎(薬剤性膵炎)」
日本膵臓学会「急性膵炎診療ガイドライン2021」
日本膵臓学会「急性膵炎」

