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≪4月22日更新≫球審の側頭部にバット直撃の惨事…プロ野球審判員の命を守るために、完全ABSの導入を検討してもいいのでは

≪4月22日更新≫球審の側頭部にバット直撃の惨事…プロ野球審判員の命を守るために、完全ABSの導入を検討してもいいのでは

冷静に考えれば、野球とは極めて危険と隣り合わせのスポーツである。4月16日のヤクルト-DeNA5回戦(神宮)で起きた凄惨な事故は、グラウンドに立つ者たちの安全について、野球界全体に強烈な警鐘を鳴らした。

打者の手からすっぽ抜けたバットが、球審を務めていた川上拓斗審判員(30)の左側頭部を直撃。記念すべき「1軍初球審」の舞台は、緊急手術と集中治療室(ICU)での治療という痛ましい事態に暗転してしまった。

記者は格闘技の取材経験もあり、頭にダメージを受けた人間が崩れ落ちるシーンは何度も見てきた。しかし、今回の事故はグローブ越しのパンチではなく、木製バットが側頭部を直撃するという恐ろしいものだった。川上審判員の無事を祈るしかない。

この事故を受け、NPBは直ちに全審判員にヘルメットの着用を義務付ける通達を出した。NPBは17日に川上審判員が、事故後に東京都内の病院に緊急搬送され、緊急手術を受け、ICUで治療を受けていることを発表したが、22日午前の時点ではその後の容体について発表していない。

「最善の初手」だったヘルメット義務化

一部からは白井一行審判員が使用しているような「アイスホッケーのゴーリー(GK)型マスクを全面導入すべきではないか」という声も上がったが、NPBが「従来のセパレート型マスク+ヘルメット」を選択したことは、現時点での危機管理として理にかなっているといえる。

ゴーリー型マスクは顔面を完全に保護できる一方、ファウルチップが直撃した際にマスクが吹き飛ばず、150キロの衝撃がそのまま首や脳に伝わって深刻な脳震盪を引き起こすリスクが指摘されている。選手時代の巨人・阿部慎之助監督もゴーリー型マスクを使用していたが、ファウルチップの直撃で首にダメージを受けた後に従来のセパレート型マスク+ヘルメットに戻していた時期があった。ゴーリー型マスクは、シーズン途中から急に「これを使いなさい」と言われて、使いこなせるものではない。

今回のNPBの対応は、新たな労災リスク(脳震盪)を生むことなく、これまでのマスクの最大の死角であった「側頭部・後頭部」への打撃をピンポイントで防ぐ、極めて現実的で賢明な一手だったと言える。

犠牲の上に成り立ってきた野球の安全対策

野球の歴史を振り返ると、安全装備の進化は常に「痛ましい事故の教訓」の後追いだった。

かつて野村克也氏が現役だった時代の写真を見て驚いたことがある。「え、この時代のキャッチャーってヘルメットじゃなくて普通の帽子で守ってたの?」。南海時代の写真で野村氏は布製の帽子の上に直接マスクを着けていた。

2007年に米マイナーリーグで一塁ベースコーチだったマイク・クールボー氏が打球直撃により命を落とすまで、ベースコーチはヘルメットすら被っていなかった。打者のヘルメット着用義務化でさえ、長い時間がかかっている。クルーボー氏の兄スコットがかつて阪神でプレーしていたことから、この事故は日本でも大きく報じられた。

「過剰な防具は臆病だ」という古い精神論や正常性バイアスによって、野球は驚くほど無防備な状態で行われてきたのだ。

「完全ABS」は審判の権威を奪うのか、命を守る盾か

しかし、現代の野球は過去とは次元が違う。投手の平均球速は上がり続け、トレーニングの進化によって打球速度もかつてないほど高速化している。もはや気合いや反射神経だけで身を守れる限界は超えている。今まで想定されていなかった事故について、私たちは真剣に向き合わなければならない。

そこで浮上するのが、KBO(韓国プロ野球)などで導入が進む「完全ABS(自動ストライクボール判定システム)」の存在だ。

これまで、ABSの導入議論は「判定の正確性」や「審判の権威の低下」「野球というゲームの伝統的な人間味の喪失」といった文脈で語られることが多かった。そのため、日米の野球界は全面的な導入に対してどこか消極的な姿勢を見せている。米大リーグでは完全ABSではなく、ABSチャレンジ制度の導入にとどめた。日本ではまだ導入の予定はない。だが、ここに来て日本でも風向きが変わりつつある。

選手会もABS活用に前向きな姿勢

20日、東京都内でNPBと日本プロ野球選手会の事務折衝が行われた。選手会の近藤健介会長(ソフトバンク)が対面で出席したこの会議では、3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場した選手から導入すべきと声が上がっていたサイン伝達機器「ピッチコム」の早期導入が要望された。一方、投球間隔制限「ピッチクロック」については投手の故障リスクが懸念されるため、7月の総会で選手の意見を集約すると慎重な姿勢を見せた。

ABS導入については「審判員の待遇改善、評価制度」に関連する話題で、導入の是非が議題に上がり、選手会の加藤諭事務局次長は「完全にロボット審判にしたいという話は出ていないが、ABSを使わないと審判員の判定への評価もできない」とNPBへ伝達したと明かした。選手会側は判定の正確性や審判員の正当な評価基準として、すでにABSの導入に前向きであるといえる。

この事務折衝が行われたのは20日で川上審判員の事故から間もなかったこともあり、判定の正確性や審判員の評価基準としてのABS導入という話になったが、ABSは審判の権威を奪うものではなく、「審判の命を守る盾」になり得るのだ。川上審判員の事故を受け、反ABSから、ABS推進派に転向する者も今後増えてくる可能性もある。

ストライクとボールの判定を機械が行うようになれば、球審は投球の軌道をミリ単位で見極めるために、捕手の肩越しの危険な至近距離に留まる必要がなくなる。本塁でのアウト、セーフの判定などがあるため、本塁後方にいる必要はあるが、理論上、今よりも半歩から1歩後方に下がって構えることが可能になるのだ。

この「物理的な距離」がもたらす安全上の恩恵は計り知れない。すっぽ抜けたバット、折れたバットの破片、そしてファウルチップ――。後方に下がり視野を広く持つことで、これらの直撃リスクを劇的に下げることができる。

伝統よりも重いもの

試合を裁く審判員は、プロ野球興行において欠かせない存在である。彼らの安全が脅かされる状況は、プロ野球そのものの危機に直面しているのと同じだ。

「アンパイアの威厳」や「人間がジャッジする伝統」を守ることは確かに大切かもしれない。しかし、現場に立つ人間の命や健康よりも重い伝統など存在しない。

テクノロジーの進化を「人間から仕事を奪うもの」と捉えるのではなく、「人間を危険から遠ざけるもの」として活用する。投手の球速が160キロに迫る時代、審判員の命を守るための「完全ABS導入」という選択肢を、私たちはより前向きに、そして急務として検討し始める時期に来ている。また、世界でもMLBに次ぐレベルのプロ野球組織として、NPBが審判員の安全を守るためにABSが有用であると検証できた場合は、MLBをはじめ、他国リーグにそれを伝えるという使命もあるのではないだろうか。

配信元: iza!

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