6月に米国、カナダ、メキシコで開催されるサッカーW杯。決勝戦を含む8試合が開催される米ニュージャージー州のメットライフスタジアム(W杯期間中の呼称はニューヨーク・ニュージャージー・スタジアム)への主要な交通アクセス手段となる鉄道の運賃がなんと通常時(12.90ドル)の10倍以上となる150ドル(約2万4000円)に設定されることが正式に決まった。もし日本代表がグループFを3位で通過した場合、決勝トーナメント初戦の舞台となる可能性もあり、日本から駆けつけるサポーターにとっても大問題に発展しかねない。
17日(日本時間18日)、交通当局のニュージャージー・トランジット(NJ Transit)とFIFAは、ニューヨーク市(マンハッタン)からスタジアムまでの公共交通機関の往復運賃を、通常時(12.90ドル)の10倍以上となる150ドル(約2万4000円)に引き上げると正式に発表した。マンハッタンからスタジアムまでは、川を挟んでわずか約8マイル(約13キロ)しか離れていない。これほど短距離のわずかな乗車時間にもかかわらず、約2万4000円もの運賃を強要されるという信じがたい事態である。高齢者や子供の割引は一切なく、FIFAが運行する公式シャトルバスでさえ往復80ドル(約1万2700円)という強気の設定だ。
決して対岸の火事ではない!日本代表の「ラウンド32」が同会場になる可能性
日本のファンにとっても無視できない大問題となる。今大会から出場枠が拡大され、決勝トーナメント初戦は従来の「ラウンド16」ではなく「ラウンド32」となる。日本代表(グループF)がグループリーグを突破した場合の行方は以下の通りだ。
1位通過の場合:エスタディオ・BBVA(メキシコ)でグループCの2位と対戦
2位通過の場合:NRGスタジアム(ヒューストン)でグループCの1位と対戦
3位通過の場合:各組3位(全12組)のうち成績上位8チームに入れば進出。他グループの結果によって対戦相手と会場が4パターンに分かれる。
この3位通過時の「パターンB(グループIの1位と対戦)」に該当した場合、7月1日に行われるラウンド32の試合会場が、まさにこの「ニューヨーク・ニュージャージー・スタジアム」となるのだ。
そもそもこの会場は、ニューヨーク市中心部から川を挟んだニュージャージー州側に位置しており、普段のプロフットボールNFLの試合や超大型コンサートの際には、大多数のファンが車で来場することを前提に設計された郊外型のスタジアムだ。広大な敷地と巨大な駐車場を備えた、まさに「車社会・アメリカ」の象徴とも言える施設である。
しかし、今大会の期間中はセキュリティー確保などを理由に、一般来場者の車での来場は禁止される。さらに今回の発表では、鉄道の乗車拠点となるマンハッタンの主要駅(ペン駅)において、試合当日は一般客の利用が4時間にもわたって制限されるということも決まった。車での来場を実質的に禁じられ、完全に逃げ場を失ったファンたちは、この「法外な運賃の公共交通機関」を使わざるを得ない状況に追い込まれているのだ。
押し付けられた「4800万ドル」の請求書
なぜ、これほどまでに理不尽な価格設定が強行されたのか。その背景にあるのは、メガイベントの裏で繰り広げられる、大人たちの醜い責任逃れだ。
「いまの州政府が引き継いだ契約では、FIFA側からの交通費支援は『ゼロ』となっている。文字通りゼロだ」
批判の矢面に立たされたニュージャージー州のマイキー・シェリル知事は、動画を通じて猛反論。NJ Transitのクリス・コルリCEOも、膨大な乗客数への対応とW杯特有の厳しいセキュリティ要件に伴うコスト増加を理由に挙げ、「これは便乗値上げではない。我々は文字通りコストを回収しようとしているだけだ」と釈明している。
NJ Transitの試算によれば、各試合で約4万人のファンを輸送・警備するための総コストは6200万ドル。連邦政府などからの補助金を除いた「4800万ドル(約76億円)」もの巨額の負担が宙に浮いている状態だという。「ニュージャージーの通勤客に、今後何年もそのツケを回すわけにはいかない」とシェリル知事が主張するように、地元住民への税金転嫁を避けるための最終手段が、世界中から訪れるファンへの「150ドルのチケット」だったというわけだ。
NY州知事も批判、大会組織委は「前代未聞」…置き去りにされたファン
ファンを露骨な資金源とするこの強硬措置には、身内からも疑問の声が上がっている。お隣ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は「わずか約8マイル(約13キロ)という短時間の乗車で100ドル以上を請求するなんて、あまりにも高すぎる」と苦言を呈した。
当のFIFA側も、この事態に不快感を隠さない。今大会の最高執行責任者(COO)ハイモ・シルジ氏は、「任意の高額運賃を設定し、そのコストをFIFAに吸収させようとするのは前代未聞だ」と反発。高額運賃がファンの足並みを乱し、大会の経済効果そのものを損なうと警告している。
そもそも、サッカーW杯において、チケット保有者が交通費を支払う必要があること自体が極めて異例だ。直近のカタール大会やロシア大会では、チケット保有者の公共交通機関利用は「完全無料」だった。
世界中が熱狂するスポーツの祭典。しかし、トップたちが「誰が払うのか」という泥仕合に終始する中、そのシワ寄せは確実にチケットを握りしめた熱心なサッカーファンの財布に重くのしかかっている。

