「鉄道会社がエスカレーター歩行禁止を周知しても片側空け慣習がなくならない。日本社会はルールではなく同調圧力に従う」――。Xのあるユーザーがつづったこの投稿が、大きな反響を呼んでいる。エスカレーターの「片側空け」をめぐる議論は以前から繰り返されてきたが、20日のこのポストをきっかけとして、Xに賛否が集中。活発な議論へと広がった。
鉄道会社はエスカレーターの「片側空け」をなくすための取り組みを長年続けてきた。業界をあげた取り組みとして、毎年夏には「エスカレーター『歩かず立ち止まろう』キャンペーン」が実施されており、JR東日本・東京メトロ・都営地下鉄をはじめとする全国の鉄道事業者60社局と7団体が共同で「歩かずに立ち止まろう」「手すりにつかまろう」と呼びかけている。このキャンペーンは、歩行中の転倒事故のリスクや、体が不自由で片方の手すりしか使えない人が「片側空け」の慣習に困らされているという背景から始まったものだ。しかし現実は、今回の議論が改めて示すように、慣習の壁は厚い。
「エスカレーターくらい歩かせろと聴こえてくる」
投稿者の「同調圧力」論に対し、Xには
「これはルールというより『目に見える合意』の問題です。組織がガイドラインを定めたとしても、行動は往々にしてその瞬間に社会的に期待されていると感じるものに落ち着くものです。エスカレーターはまさに集団規範文化の縮図と言えるでしょう」
「日本人てどこよりもルールが大好きだと思ってたけど、それに不都合を感じる人が多すぎると慣例が優先されるんだなと思った。エスカレーターくらい歩かせろと聴こえてくる」
と共感する声が相次いだ。また、
「1980年代にエスカレーターの手前で、駅員さんが『右側あけてくださーい』って整列させてた記憶があります。鉄道会社の新人研修なりで、4月か5月に新人駅員をエスカレーターに配置して右開けをやめさせるのを10年続けるしかないと思ってます」
「もとは鉄道会社が『急ぐ人のために片側を空けろ』と周知していたから。方針を変えるならまず詫びてから。それをしないから信用されない」
と、かつて鉄道会社自身が片側空けを推奨していた経緯から、慣習が今も残ると指摘する声も上がった。
「駅員の監視塔がないと難しい」
「同調圧力」という見方とは別に、変わらない理由として多くの利用者が挙げたのが「怖い」という実体験で、
「いやいや、同調圧力とかじゃなく真ん中立ってても後ろから迫ってきたヤツが『オラ!どけ!』ってやってきたらソイツがルール違反でも怖くない?お巡りさんが即駆けつけてくれてソイツをしょっぴいてくれるならまだしも怖い思いして泣き寝入りするだけだし最初から避けとく人が多いだけなんじゃないか」
「今は右側に止まって乗っていて後ろの方に怒鳴られました。定着するまでは駅員の監視塔がないと難しいですね」
「今右側に立ってたらそれは『わざわざ歩きたい人の邪魔をしてルールを守る自分に対して悦に浸ってる奴』だから無理よ 定着してないから定着しない状況」
といった理由が多く上がった。
こうした実体験に加え、障害のある人への影響を訴える声も目を引いた。
「本当にそれです。片側にしか掴まれない障害者の方などが、東京や大阪での後ろからの罵声に悩まされている。ルールを破っているのは歩行者の方なのに、いい大人が『いやだーエスカレーター歩きたいんだー』って駄々こねてみっともない」
という警鐘を鳴らす人もいた。
「その方が合理的だから」
こうした「安全・弱者への影響」を重視する声がある一方、
「同調圧力以前にその方が合理的だから。急ぐ人も急がない人もいる。ベストは一列のエスカレーターと階段を併設することだね」
「正直 あんな狭い幅で他人と並びたくない」
「速度差があればパーソナルスペースを冒し合わない」
という現実論を持ち出す向きもあるが、歩行による転倒リスクが解消されるわけではない。
「せいぜい50年の習慣ですからこれから社会がいよいよ高齢化して効率より安全に傾いたら逆の同調圧力が働いてみんな止まって乗るかもしれません」
と時間が解決するとの反応も。それでは甘いとばかりに、
「強制力を付けた罰則を付けない限り無くならないでしょう」
といった意見も見られた。
「埼玉・名古屋」のみ条例化
では、マナーの呼びかけではなく、法律や条例でルールを定める動きはどうなっているのか。実は、エスカレーターの歩行禁止を条例などで義務付ける動きも一部では進んでいる。しかし、地方自治研究機構(RILG)によれば、2025年11月時点で確認している「エスカレーター歩行禁止を明文化した条例」は、埼玉県(21年10月施行)と名古屋市(23年10月施行)の2件のみ。いずれも罰則はなく、利用者に「立ち止まった状態での利用」を義務付ける内容となっている。埼玉県条例は動く歩道も対象に含む点が特徴で、名古屋市条例にはその規定がない。全国的な法制化の動きについては現時点で至っていない。
名古屋市では「なごやか立ち止まり隊」と称してエスカレーターの右側に立ち止まるスタッフを配置したり、AIセンサーでエスカレーターを歩く利用者に警告するなど、独自の施策を展開している。名古屋市が24年6〜7月に実施した調査では利用者の93.3%が立ち止まって乗っていたという結果も出た。
Xの議論も、「日本社会はルールより空気に従う」という指摘に対して「それが合理的だから」「罰則がなければ変わらない」「鉄道会社がかつて推奨していた」とさまざまな角度から反論や問い直しの声が寄せられた。日常のマナー論争は、日本社会の行動原理を映す鏡となっている。

