開け放たれたプライバシー
カチャリ、という金属音がリビングに響くたび、私の心臓は嫌な跳ね方をします。
「あら、結衣さん。お隣さんに桃をもらったから、お裾分け持ってきたわよ」
声の主は、車で1分ほどの距離に住む義母の和代さんです。産後4ヶ月、ようやく赤ちゃんとの生活リズムが整ってきた私にとって、この「予告なしの訪問」が何よりのストレスになっていました。
きっかけは、私が第2子の妊娠中に切迫で入院したことでした。上の子の保育園の送迎や家事を手伝ってもらうため、夫の健太が「何かあった時のために」と義母に合鍵を渡したのです。
当時は本当に助かりました。義母の協力がなければ、あの動けない日々を乗り切ることはできなかったでしょう。でも、無事に退院し、出産を終えた今、状況は変わってしまいました。
「親切」という名の侵入
義母に悪気がないのは痛いほどわかっています。
「仕事が休みになったから、上の子を園に送ってあげようと思って」
「夕飯の足しに、おかずを作ってきたわ」
どれもありがたい申し出です。けれど、授乳中だったり、夜泣き対応でボロボロになりながら仮眠をとっていたりする時、突然リビングに誰かが立っている恐怖は言葉にできません。
ある夜、夫に正直な胸の内を打ち明けました。
「お義母さんには感謝してる。でも、連絡なしで鍵を使って入ってこられるのは、正直しんどいかな…」
すると、夫も深くため息をつきました。
「…実は俺も思ってた。こないだもお風呂上がりに裸でうろうろしてたら、お袋がキッチンにいて心臓が止まるかと思ったよ」
夫婦共通の悩みだと分かり少し安心しましたが、問題はどうやって角を立てずに鍵を返してもらうかです。これまで多大なるお世話になっておいて、ストレートに「鍵を返して」と言うのは、あまりにも冷酷に思えてなりませんでした。

