日中の強い眠気は、睡眠不足や疲労によるものと考えられがちですが、なかには睡眠障害が背景にある場合もあります。その一つがナルコレプシーで、十分に眠っているにもかかわらず、日中に強い眠気が繰り返し現れることが特徴です。
また、ナルコレプシーは日本ではより多いとされており、その理由として遺伝的な背景や免疫の関与などが指摘されています。ただし、発症の仕組みはまだ完全には解明されておらず、複数の要因が関わると考えられています。
この記事では、ナルコレプシーの基本的な特徴に加えて、日本で多いといわれる理由や発症に関わる要因について解説します。

監修医師:
前田 佳宏(医師)
・精神科/心療内科医
・精神保健指定医
「泣きたくなったら壁を押せ」著者
大人と子どもの双方で、トラウマや愛着障害に心理療法的アプローチを用いる医師。これまでのべ3,000人以上の臨床に携わる。
島根大学医学部卒業。その後、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局、東京警察病院や国立精神神経医療研究センター等を経て、児童精神科外来を3年間、トラウマ専門外来を2年間担当。著書『泣きたくなったら壁を押せ』(サンマーク出版、2026年)では、心理療法のプロセスを物語として描き、私たちの感情の奥にある“適応の物語”をたどった。その視点をともに探る場として、オンラインコミュニティ「しなここメイト」を主宰。cotree顧問医。産業医。日本小児精神神経学会所属。
ナルコレプシーの概要

ナルコレプシーとはどのような病気ですか?
ナルコレプシーは、日中に強い眠気が繰り返し出現する睡眠障害の一つです。夜間にしっかり眠っているつもりでも、日中に急に眠気が込み上げ、意図せず眠ってしまうことがあります。その背景には、覚醒状態を維持する働きをもつ神経伝達物質であるオレキシンの低下が関与していると考えられています。この影響により、睡眠と覚醒の切り替えが不安定になり、本来起きている時間帯にも眠気が入り込みやすくなります。
思春期から若年成人に発症することが多い一方で、周囲から気付かれにくく、診断に至るまで時間がかかるケースもあります。
参照:『中枢性過眠症』(国立精神・神経医療研究センター)
ナルコレプシーの症状を教えてください
ナルコレプシーでは、いくつかの特徴的な症状が組み合わさって現れます。なかでも代表的なのは、日中の耐えがたい眠気で、仕事中や会話中などでも急に眠り込んでしまうことがあります。さらに、感情の変化をきっかけに力が抜ける情動脱力発作がみられることもあります。笑った瞬間に膝が崩れる、まぶたが落ちるといった形で現れるのが特徴です。
そのほか、眠りに入る直前や目覚める直前に現実のように感じる映像を体験する入眠時幻覚や、意識はあるのに身体が動かせない睡眠麻痺も知られています。
これらの症状によって、日常生活や仕事に支障が出ることがあります。
ナルコレプシーが日本人に多いといわれる理由

日本におけるナルコレプシーの患者数を教えてください
ナルコレプシーの有病率は国や調査によって差がありますが、日本には多いとされ、人口の0.16%にみられると報告されており、これはおよそ600人に1人程度の割合に相当します。この数値は欧米と比べてもやや高い傾向があり、日本では身近な睡眠障害の一つといえます。ただし、症状が見過ごされているケースもあるため、実際の患者数はこれより多い可能性もあります。
参照:
『ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン』(日本睡眠学会)
『Prevalence of narcolepsy symptomatology and diagnosis in the European general population』(Neurology)
日本と海外で発症率に差はありますか?
ナルコレプシーの有病率は地域によって差があり、日本を含む東アジアでは有病率が高いとされています。一方で、欧米ではこれより低い割合が報告されており、国や人種による違いがあると考えられています。ただし、調査方法や診断基準の違いによって数値にばらつきがあるため、単純に比較することは難しい面もあります。それでも、地域によって頻度に違いがあることは、いくつかの研究で示されています。
参照:
『ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン』(日本睡眠学会)
『Prevalence of narcolepsy symptomatology and diagnosis in the European general population』(Neurology)
『The epidemiology of narcolepsy』(Sleep)
なぜ日本人にナルコレプシーが多いのですか?
日本人にナルコレプシーが多い理由の一つとして、遺伝的な要因が関係していると考えられています。特に、HLAと呼ばれる免疫に関わる遺伝子のタイプが関与しており、日本人ではナルコレプシーと関連する型を持つ方の割合がより高いとされています。また、ナルコレプシーは自己免疫の関与も指摘されており、遺伝的な背景と免疫の反応が組み合わさることで発症しやすくなる可能性があります。
ただし、遺伝的な要因だけで決まるわけではなく、感染症などの環境要因が引き金になることも考えられており、複数の要素が関与する病気とされています。
参照:『ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン』(日本睡眠学会)

