《江島春望》は葛飾北斎らしい「のびやかな浮世絵」
《江島春望》は、北斎が波を描くようになった最初期の作品です。浅草田原町の質商浅草庵市人による狂歌絵本『柳の糸』に収録されました。『柳の糸』には北尾重政なども挿図を寄せていることから、当時38歳の北斎が一流の絵師に劣らず活躍していたことが分かります。
葛飾北斎《江島春望》(1797年)/東京国立博物館, Public domain, via Wikimedia Commons.
本作の特徴は、伝統的な浮世絵の技法に、西洋画の遠近法や陰影表現を融合させている点です。司馬江漢らの影響を受けたとされる構図は、「のびやか」という言葉がふさわしい開放感に満ちています。
さらに、江ノ島を望む七里ヶ浜の景観と、人々の細やかな動きが淡い色調でまとめられています。波は裏側まで書き込まれており、《冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏》へと連なる、北斎ならではの視点が感じられます。
映画『HOKUSAI』において、《江島春望》は北斎が「自分にしか描けない絵」を掴み取る転換点として描かれました。美人画や役者絵が主流だった時代に、風景そのものを主役へと押し上げようとした北斎。対象を自然で情感豊かに写し取ろうとする瑞々しい感性が、一筆一筆に宿っていることでしょう。
葛飾北斎は世界に名を轟かせる浮世絵師へ
葛飾北斎の絵師生活はアップデートの連続でした。飽くなき表現への執着と、成長を信じて疑わない姿勢が、偉大な業績を実現したのではないでしょうか? 75歳を超えてもなお「110歳で一点一画を生きているように描く」と誓った信念は、今を生きるわたしたちの心にも、力強い情熱をともしてくれます。
今回ご紹介した作品は、彼の膨大な業績のほんの一部に過ぎません。この機会に、ぜひ多才な足跡を調べてみてくださいね。きっと新しい発見があるはずですよ。
