同調そのものを否定するのではなく、「どう振る舞うか」を自分で選ぶことの大切さに気づいた真帆。悠真に対しても“どうなりたいか”を問いかける関わりへと変化していった。そんな中、児童館で再び翔と湊の間で緊張が走る場面が訪れ、悠真は選択を迫られる──。
試される瞬間
「ねえ、また間違えてるじゃん」
翔の声が、少し大きく響いた。
児童館のテーブルで、湊は小さく肩をすくめる。
「……ごめん」
か細い声でそう言うと、翔は鼻で笑った。
「ほんと、できないよな」
その言い方に、周りの空気が少しだけ張りつめる。
「やめてよ……」
湊が、絞り出すように言った。
でも翔は、やめない。
「何が?別にできてないから言ってるだけじゃん」
そう言いながら、もう一度、わざとらしくため息をつく。
そのとき、翔の視線が、ゆっくりとこちらに向いた。
にやり、とした口元。
「……なあ?」
試すような目。悠真の心臓が、ドクンと強く鳴る。
(どうしてやる?)
そう言われている気がした。
体が、固まる。
喉が、うまく動かない。
そのとき、ふっと別の声がよぎった。
思い出した“選んでいい”という言葉
「怖いよね」
昨日の帰り道。ママは、そう言った。
「仲間外れにされたり、嫌なことされるかもって思ったら、合わせちゃう気持ちもわかるよ」
責めるんじゃなくて、ちゃんと聞いてくれた。
「でもね」
そこで、少しだけ立ち止まって。
「他の子を仲間外れにしたり、怖い思いをさせるのは、その子にとって同じくらいつらいことなんだよ」
静かな声だった。でも、まっすぐだった。
「悠真には、そんなことしてほしくないなって思う」
その言葉に、何も言えなかった。
ただ、胸の奥が少しだけ苦しくなった。
「怖いかもしれない」
ママは、そう続けた。
「でもね、どうするかは悠真が決めていいんだよ」
優しく、でもはっきりと。
「どんなふうになりたいか、自分で選んでいい」
「……」
目の前に、湊がいる。
困った顔で、うつむいている。
さっきの「やめて」が、頭の中で何度も響く。
胸が、ぎゅっと痛くなる。
でも翔の視線も、まだそこにある。
逆らったらどうなるか、わからない。
また、自分が同じことをされるかもしれない。
仲間に入れてもらえなくなるかもしれない。
怖い。すごく怖い。
それでも悠真は、口を開かなかった。何も言わなかった。
ただ、笑わなかった。うなずかなかった。
視線を逸らさず、でも、同じ側にも立たなかった。

