「技術はあくまで手段」―大切なのは傾聴し、患者の希望に寄り添うこと
私自身、約40年にわたり耳鼻咽喉科医としてこの領域の進歩を目の当たりにしてきました。若手だったころ、耳の手術と言えば大きく切開して顕微鏡で行う手法が標準的でした。ところが現在では内視鏡の普及により、非常に小さな切開で低侵襲に手術できるようになっています。
頭頸部がんも同様に、大きく切除して再建する方針から、放射線治療や化学療法、分子標的薬(がん細胞の特定の分子を狙い撃ちにする薬)、免疫療法を活用してできる限り機能を温存しながら治療するという方針に大きくシフトしました。診断機器の進歩も目覚ましいものがあります。
一方、私が臨床で今も変わらず最も大切にしているのはシンプルな姿勢です。「患者さんの話をよく聞く」、これに尽きます。耳鼻咽喉の疾患は外から見えない部分が多く、めまいにしても難聴にしても、つらさは本人にしか分かりません。何に困っているのかを本人に言葉でどう伝えてもらうかが、診療の出発点になります。
だからこそ、一人ひとりの話に耳を傾け、その人に寄り添った治療を提案していくことが重要です。診断・治療技術がさらに進化するこれからの時代においても、「便利だから」と一律に新しい技術を患者さんに押しつけてはならないと思っています。
テクノロジーが進歩しても「人と人とのつながり」は不変
では、テクノロジーの進化と優しさに満ちた治療は共存できないのかというと、そのようなことはありません。むしろテクノロジーの進化が耳鼻咽喉科頭頸部外科における医療の在り方を大きく変えていくと考えています。AIによる画像診断支援や音声認識は、私たちの診療をサポートしてくれる強力なツールになるでしょう。ロボット手術もさらに進化して、より精密で安全な手術が可能になっていくと推測します。
こうしたツールの活用で生まれた時間と余力をいかに患者さんとの対話や心のケアに注いでいくかが、私たち医療従事者に求められている役割であり、テクノロジーと共存する「優しさに満ちた治療」の未来の景色だと考えています。
未来を担う若手医師への期待―「五感と命」の両方を担うやりがい
耳鼻咽喉科頭頸部外科の魅力は、やはり「五感」に関わるというところだと思います。当科の医師数は約1万1000人と全医師の約4%にすぎません。しかし少数ながら、人が人らしく生きる土台に直結する領域を担当し、新生児から高齢の人まで幅広い年齢層の患者さんを診ています。さらに、内科的治療から外科手術まで、一科で完結して担えるという点も大きな魅力です。
5月21日(木)には医学生・臨床研修医向けセミナー「杜の都で耳鼻咽喉科頭頸部外科のリアルを学ぶ!」、翌22日(金)には「診療体験ハンズオン」も実施します。ぜひ多くの人に本領域の魅力を知ってもらい、一緒に未来の医療を創っていってほしいと願っています。
「優しさに満ちた治療」を開発する人・届ける人・受ける人が一堂に会する4日間が、間もなく開催されます。新緑が鮮やかになる5月、耳鼻咽喉科頭頸部外科の「現在」と「これから」を、ぜひ杜の都・仙台で体感してみてください。
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