橋本病(慢性甲状腺炎)は、甲状腺にまつわる自己免疫疾患です。
甲状腺は、喉元にある蝶ネクタイ型の臓器であり、主に全身の代謝にまつわるホルモンの分泌と調整に関わっています。この甲状腺から出るホルモンが減少してしまう病気が、甲状腺機能低下症です。
甲状腺機能低下症の原因のひとつに、橋本病があります。
どのような病気でも、一度病気だと診断されると、
「なにか悪い習慣があったのかな」とか、
「もしかして、あれがダメだったのかな?」とか考えてしまいますよね。
ましてや、甲状腺という臓器は耳になじみのない病気かもしれません。
この記事では、甲状腺にまつわる病気である、橋本病の原因や発症要因について解説します。

監修医師:
上田 莉子(医師)
関西医科大学卒業。滋賀医科大学医学部付属病院研修医修了。滋賀医科大学医学部付属病院糖尿病内分泌内科専修医、 京都岡本記念病院糖尿病内分泌内科医員、関西医科大学付属病院糖尿病科病院助教などを経て現職。日本糖尿病学会専門医、 日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医、日本専門医機構認定内分泌代謝・糖尿病内科領域 専門研修指導医、内科臨床研修指導医
橋本病の原因

橋本病の原因を教えてください
橋本病は、免疫の働きの異常によって起こる病気です。本来、免疫は細菌やがん細胞などから身体を守るために働いています。しかし橋本病では、免疫が誤って自分の甲状腺を攻撃してしまうことがあります。
橋本病では、次のような自己抗体が関係していることが知られています。
抗TPO抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)
抗サイログロブリン抗体(抗Tg抗体)
そもそも抗体とは、細菌やウイルス、がん細胞などと戦うために身体が作る免疫の武器のようなものです。
しかし、免疫のバランスが崩れると、自分の臓器を標的にした抗体(自己抗体)が作られてしまうことがあります。
橋本病をもっていると、異常な抗体の産生により誤って自分の臓器である甲状腺を攻撃してしまいます。すこしずつ甲状腺が壊されていき、ある程度まで進むと甲状腺ホルモンが十分作れなくなって甲状腺機能低下症を発症します。
血液検査では、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体が陽性になることが多く、診断の参考になります。
なぜ自己免疫が甲状腺を攻撃するのですか?
橋本病は、本来は身体を守るはずの免疫系が、誤って自分の甲状腺を攻撃してしまうことで起こります。ただし、なぜ免疫が甲状腺を攻撃するのかについては完全には解明されていません。現在は、いくつかの要因が組み合わさって起こると考えられています。
そして、そのひとつは、遺伝要因です。
橋本病と遺伝の関係を教えてください
橋本病は、遺伝要因を基盤に、生活のなかで起こる何らかの要因が重なって発症するといわれています。橋本病に遺伝要因が関与する理由は、免疫の働きに関係する遺伝子の影響で、自己と非自己を見分ける仕組みが少し不安定な体質があるためと考えられています。
橋本病に関与する遺伝要因として、次のような遺伝子が考えられています。
CTLA-4(cytotoxic T lymphocyto-associated factor 4)遺伝子
サイログロブリン遺伝子多型
このような遺伝要因を背景に、何らかのきっかけをもって橋本病は発症します。
参照:『甲状腺専門医ガイドブック』(日本甲状腺学会)
橋本病の発症に関係すると考えられる要因

橋本病の患者数を教えてください
橋本病自体は、とても頻度の高い病気です。成人では、女性の10人に1人、男性の40人に1人にみられます。橋本病は30代~40代の女性に多く、男女比は1:20~30ほどです。
幼児や学童では、破壊がすすんでおらず、甲状腺機能低下まできたす方はまれといわれています。
参照:『橋本病(慢性甲状腺炎)』(日本内分泌学会)
橋本病に罹患しているすべての人が甲状腺機能低下症を発症するのですか?
橋本病では甲状腺の自己抗体が陽性であることで、自己免疫による機序で甲状腺組織の破壊が進むと甲状腺機能低下症を発症します。しかし、橋本病をもっていても、大部分の方で甲状腺ホルモンは正常に保たれます。橋本病では、4~5人に1人未満の方で甲状腺機能低下症を発症する場合があります。参照:『橋本病(慢性甲状腺炎)』(日本内分泌学会)
橋本病で甲状腺機能低下症を発症する要因やきっかけを教えてください
橋本病では、遺伝要因をベースに、何らかのきっかけがあって自己抗体ができてしまうという説が現在は有力です。代表的なものとして、次のようなきっかけが考えられています。
ウイルス感染
強いストレス
喫煙
妊娠・出産
ヨード過剰摂取(海藻類、薬剤、造影剤など)
ヨウ素は、海藻類、特に昆布に多く含まれるため、日本人は世界でも多量にヨウ素を摂取している民族といえます。ヨウ素の過剰摂取が問題になるのは、普段ヨウ素が不足している方が急にヨウ素を過剰に摂る場合に多く、出汁文化では多少のヨウ素過剰は通常の場合問題がないことが多いです。
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、ヨウ素の摂取上限量は3.0mg(3,000μg)/日とされています。例えば、とろろ昆布10gには約20mg(20,000µg)のヨウ素が含まれています。昆布茶1杯では、ヨウ素は数mg程度程度です。
濃い昆布だしを毎日複数杯飲むと、上限量の3.0mg/日を超える場合もあります。また、海藻料理では3.0mg/日を超えるヨウ素摂取になることがありますが、一時的な摂取であれば、腎機能が正常であれば、通常は尿中排泄されます。
また、頻回の造影CTや冠動脈カテーテル治療などで造影剤を多く使うと、多量のヨウ素が一時的に体内に入り、甲状腺機能低下症を発症することがあるといわれています。
参照:
『日本人の食事摂取基準(2025年版)』(厚生労働省)
『Association between iodinated contrast media exposure and incident hyperthyroidism and hypothyroidism』(Arch Intern Med)
『Hashimoto thyroiditis: an evidence-based guide to etiology, diagnosis and treatment.』(Pol Arch Intern Med)
橋本病が女性に多い理由を教えてください。
橋本病をはじめとした自己免疫疾患が女性に多い理由は、女性でいくつかの要因が重なるためです。代表的でわかりやすい理由は、次のとおりです。
エストロゲンによる免疫活性化
X染色体に多い免疫遺伝子
妊娠・出産による免疫リバウンド
まず、女性では、月経とともに、エストロゲンというホルモンが周期的に分泌されます。
女性ホルモンであるエストロゲンは、免疫反応を活性化する方向に働きます。このため、ホルモンの影響で自己免疫疾患の罹患割合が増えるとされています。
つぎに、ヒトの体細胞は46本の染色体(23対)を持ちます。そのうち1対が性染色体です。男性はX染色体とY染色体を1本ずつ、女性はX染色体を2本持っていることが知られています。このX染色体に免疫に関する遺伝子が多種存在するため、X染色体を多く持つ女性のほうが自己免疫疾患に罹患する遺伝要因が揃いやすいという背景があります。
さらに、女性は妊娠や出産により、子どもという身体にとっての異物を胎内で育むことがある性別です。自分の免疫で子どもを攻撃しないように、自他の認識が妊娠出産を契機に急激に変化します。この変化の影響で、自己免疫疾患に罹患しやすいといわれています。
これらの理由で、橋本病だけでなくSLEやシェーグレン症候群、関節リウマチなど多くの自己免疫疾患が女性優位になります。
参照:
『Hashimoto thyroiditis: an evidence-based guide to etiology, diagnosis and treatment.』(Pol Arch Intern Med)
『Sexual dimorphism in autoimmunity.』(J Clin Invest)

