突然の胃痛に「心当たりがある」と感じる方も少なくないのではないでしょうか?AGMLは、NSAIDsなどの薬剤やアルコールの過剰摂取、重篤な疾患による身体的ストレスなど、さまざまな要因が重なって発症します。原因ごとのリスクや注意点を理解しておくことで、予防や早期対応につながる知識が得られます。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
急性胃粘膜病変 (AGML) の原因:なぜ突然の胃痛が起こるのか
AGMLはさまざまな要因が重なって発症します。原因を正確に理解することで、治療だけでなく再発防止にもつながる知識が得られます。
薬剤が引き起こすAGML
AGMLの原因として特によく知られているのが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用です。NSAIDsは、痛み止めや解熱剤として広く用いられる薬剤で、アスピリンやイブプロフェンなどが代表例です。これらの薬は胃の粘膜を保護するプロスタグランジンという物質の産生を抑制するため、胃粘膜の防御機能を低下させます。
特に、高齢の方や胃の疾患歴がある方、複数の薬を同時に服用している方は、NSAIDsによるAGMLのリスクが高いとされています。また、ピロリ菌に感染している方がNSAIDsを服用すると、さらにリスクが高まることがわかっています。薬の服用を自己判断で中断することは危険ですが、胃の不調を感じたら処方した医師や薬剤師に相談することが重要です。
アルコール・刺激物とAGMLの関係
大量のアルコール摂取は、胃粘膜を直接傷つけるとともに胃酸の分泌を増加させ、AGMLを引き起こす原因となります。特に空腹時の飲酒は粘膜へのダメージが大きく、短時間で急性の炎症や出血をもたらすことがあります。
また、香辛料の多い食事や非常に熱い・冷たい食べ物も胃粘膜への刺激となり、AGMLを誘発する要因の一つです。これらは単独では発症のリスクが低い場合でも、ストレスや疲労が重なったときに引き金となることがあります。
感染症や身体的ストレスとの関連
強い手術侵襲(外科手術後)、重篤な全身疾患(敗血症、多臓器不全)、重度のやけどや外傷なども、身体的ストレスとして胃粘膜にダメージを与え、AGMLを引き起こすことが知られています。このようなケースは「ストレス潰瘍」とも呼ばれ、集中治療室(ICU)での管理中に起こりやすい合併症としても臨床現場では認識されています。
さらに、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)の感染は胃粘膜を慢性的に傷めるだけでなく、AGMLの発症リスクを高める要因ともなります。感染の有無は検査で確認できるため、胃の不調が続く方はピロリ菌検査を受けることも選択肢の一つです。
急性胃粘膜病変 (AGML) の診断と検査:正確な診断がなぜ重要か
突然の胃痛や出血症状は、AGMLだけでなく胃潰瘍や胃がんなど、ほかの疾患でも現れることがあります。正確な診断のために適切な検査を受けることが、治療の第一歩となります。
内視鏡検査の役割と手順
AGMLの診断において中心的な役割を担うのが、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)です。内視鏡は口から細い管状のカメラを挿入し、食道・胃・十二指腸の粘膜を直接観察する検査です。これによって、びらんや潰瘍の位置・大きさ・出血の有無を正確に確認できます。
検査中に出血部位が確認された場合は、そのまま止血処置(内視鏡的止血術)を行うこともあります。また、粘膜の組織を採取(生検)してピロリ菌感染やがんの有無を調べることも可能です。侵襲が少なく比較的短時間で実施できるため、急性期の診断においても有用な検査です。
血液検査・その他の補助検査
内視鏡検査と並行して、血液検査も実施されます。貧血(ヘモグロビン値の低下)や炎症反応(CRP値の上昇)を確認することで、出血の程度や身体全体への影響を評価します。特に出血が多い場合は、輸血が必要かどうかの判断にも役立ちます。
その他の補助検査として、便潜血検査(便中に微量の血液が含まれているかを調べる検査)も行われることがあります。患者さんの状態に応じて、腹部超音波検査やCT検査が加えられる場合もあります。これらを組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。
他疾患との鑑別診断
AGMLの症状は胃潰瘍、十二指腸潰瘍、急性虫垂炎、胃がんなど、さまざまな疾患と類似しています。特に胃がんの早期発見においては、症状だけでの鑑別は困難なため、内視鏡による粘膜観察と組織検査が欠かせません。「急性だから安心」と自己判断せず、専門の医師による正確な診断を受けることが重要です。

