手渡したもの
何もできないままでいることに耐えられず、休憩の時間を待って、私は用意していた焼き菓子を取り出しました。
本来は翌日手伝いに来てくれる両親用と自分へのご褒美にと楽しみにしていたものでしたが、その場でみなさんに食べてもらうことに。「これくらいしかできなくて」と差し出したお菓子は、今の私ができる精一杯の感謝でした。
「ありがとうございます」
と受け取ってもらいながらも、汗だくになっている表情に申し訳なさは消えません。
引っ越し後にそれぞれのお部屋に挨拶へ伺うと「大変だったね」と労われ、苦笑いされるばかりでした。
距離が縮む
翌日、夫から「みんな筋肉痛になってたよ」と聞き、その重みをあらためて感じました。
後日、社宅の行事でみなさんと顔を合わせた際、ご家族にも改めてお詫びを告げた私たち。
「せっかくのお休みなのに、引っ越しで疲れてしまって申し訳ありませんでした」
と伝えると「いいんよ、家におっても寝てるばっかりやから」と笑って言われ、肩の力が抜けました。
迷惑をかけてしまったと思っていた出来事が、周囲には少し違う形で受け止められていたことに戸惑いました。
思いがけないトラブルでしたが、あの一件をきっかけに、周囲との距離が少し近づいたように感じています。
【体験者:50代・筆者、回答時期:2026年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。

