ヒアルロン酸注入は、しわやたるみの改善などを目的に広くおこなわれている美容医療の一つです。一方で、「ヒアルロン酸を入れると骨が溶けるのではないか」といった不安の声を耳にすることもあります。こうした情報から、治療を受けるべきか迷っている方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、ヒアルロン酸治療の基本から骨への影響に関する噂の真相、実際のリスクや安全性について、「川崎かかりつけクリニック院長の伊藤先生に詳しく解説していただきました。
※2026年3月取材。

監修医師:
伊藤 賀敏(川崎かかりつけクリニック)
2001年奈良県立医科大学卒業。関西の有名病院で研鑽を積む。2014年より川崎幸病院心臓病センター(現・川崎心臓病センター)副センター長、循環器科副部長、救急・総合診療部副部長を務める。2015年Thomas Jefferson Universityへ短期留学(米国の複数の大学病院から招待を受け講演も実施)。2020年より湘南美容クリニックに勤務し、2022年より川崎院の院長を務め、全国からご指名を受ける(休日は心臓勤務を継続)。2025年12月に「川崎かかりつけクリニック」を開院。日本循環器学会循環器専門医、日本心血管インターベンション治療学会名誉専門医、日本内科学会認定医、日本美容外科学会正会員。
加齢による変化を根本から整える、ヒアルロン酸治療のメカニズム
編集部
はじめに、ヒアルロン酸治療とはどのような目的でおこなわれる美容医療なのか教えてください。
伊藤先生
ヒアルロン酸注入は単にしわを埋める治療ではなく、加齢によって減少した骨や脂肪のボリュームを補い、顔全体のバランスを整えることを目的としています。加齢により顔の土台は徐々に痩せ、凹みやたるみが生じますが、ヒアルロン酸で適切に補うことで、自然なリフトアップ効果が期待できます。本来の若々しい輪郭を再構築する治療としておこなわれることが特徴です。
編集部
ヒアルロン酸はもともと体内にある成分なのでしょうか?
伊藤先生
ヒアルロン酸はもともと体内に存在する保水成分で、皮膚や関節、目などに広く分布しています。水分を保持することで肌のハリや弾力を支えるほか、細胞を守るクッションのような役割も担っています。しかし、20歳頃をピークに徐々に減少し、40歳以降は急激に減り、60歳頃には若年時の約25%まで低下するとされています。この減少がしわやたるみの一因となります。
編集部
ヒアルロン酸治療では、主に体のどのような部位に注入されることが多いのでしょうか?
伊藤先生
代表的な部位としてはほうれい線や頬のくぼみ、こめかみ、額、あご、唇などが挙げられます。加齢により骨や脂肪が減少すると、顔の凹みや影が目立ちやすくなります。ヒアルロン酸を適切に補うことで、これらの部位のバランスを整え、自然な若々しさを取り戻すことが可能です。注入部位は一人ひとりの状態に応じて慎重に決定されます。
編集部
ヒアルロン酸注入はどのくらい効果が続き、どのように体内で吸収されるのでしょうか?
伊藤先生
種類によって異なりますが、一般的には半年から2年程度持続します。ヒアルロン酸は体内の酵素によって徐々に分解され、水と二酸化炭素となって体外へ排出されます。そのため、体内に残り続けることはありません。また、ヒアルロン酸はヒアルロニダーゼという酵素で分解することも可能であり、仕上がりの調整ができる点も特徴の一つです。
医学的見解から紐解く「骨が溶ける」という噂の真相と背景
編集部
「ヒアルロン酸を入れると骨が溶ける」といわれることがありますが、医学的にはどのように考えられているのでしょうか?
伊藤先生
適切な量を適切な層に注入する限り、ヒアルロン酸によって骨が溶けることは医学的に考えにくいとされています。一部の報告では、非常に硬い製剤を同じ部位に大量注入した場合に骨表面に軽度の圧迫変化が生じる可能性が指摘されていますが、臨床的に問題となることはほとんどありません。通常の医療行為の範囲では過度に心配する必要はないと考えられます。
編集部
「ヒアルロン酸で骨が溶ける」という情報は、なぜ広まっているのでしょうか? 背景にある報告や研究について教えてください。
伊藤先生
主な理由として、ヒアルロン酸とは別の治療との混同が考えられます。例えば、シリコンなどの人工物を長期間入れていると、骨が圧迫されて少し凹むことがあります。この変化が「骨が溶けた」と表現されることがありますが、ヒアルロン酸では同じことは起こりにくいとされています。また、年齢とともに骨が自然に減る変化を、ヒアルロン酸の影響だと誤解しているケースもあります。
編集部
ヒアルロン酸治療には、どのようなリスクや副作用があるのでしょうか?
伊藤先生
主な副作用として、内出血や腫れ、軽度の痛みなどがあります。さらに感染やしこりなどが生じることもあります。最も注意が必要なのは、ヒアルロン酸が血管内に入ることで血流が障害される「血管閉塞」です。まれではありますが、皮膚の壊死や視力障害につながる可能性もあります。これらのリスクを理解し、適切な技術を持つ医師のもとで治療を受けることが重要です。

