張り詰める車内、そしてひと言
そして電車が大きく揺れ、近くの人の腕がぶつかりおじさんに軽く触れました。「するとおじさんは『だから当たんなって言ってんだろ!』と嬉々として怒鳴りだし、車内がウンザリとした空気になっていったんですよ」
その時、外国人の男性が静かにその男性の方を見たそう。
「ぶつかりおじさんがイラついた顔で『なんだよ』と詰め寄ると、外国人男性は、『日本の電車……静か、いいですね』と、言葉を探すようにポツリポツリと答えていて。残念だけど、ぶつかりおじさんにそんな常識は通用しないんだよと、私まで悔しい気持ちになりました」
男性は舌打ちし「だったら黙っていろよ」と睨みつけます。
「すると突然、その外国人男性がぶつかりおじさんに向かって『さっきから見ていましたが、あなた、わざと人にぶつかっていますよね』といきなり流暢な日本語で話し出して、あまりのことに驚いて思わず『えっ?』と声が出てしまいましたね」計算された“片言”と、見事な逆転
車内は一瞬で静まり返り、男性は言葉を失ったまま固まってしまったそう。「そして外国人男性は『日本では、公共の場では周囲への配慮を大切にする文化があります。そんな素晴らしい国なのに、あなた一人のせいで、その印象を下げてしまうのはもったいないですね』と落ち着いた声でおじさんの目を見ながら伝えたんですよ」
逃げ場のない正論に、男性は何も言い返すことができません。
外国人の男性は、ふと「すみません。実は日本に十年くらい住んでいるので」と表情を緩め、その言葉に、張り詰めていた空気が一変しました。
「そしたら、ぶつかりおじさんの顔が真っ赤になり、その瞬間から車内のあちこちからクスクス笑いが起きたんですよね」
電車が駅に停まりドアが開くと男性は何も言わず、逃げるようにその場を後にしたそう。
「ドアが閉まったあとで思わず『日本語、すごくお上手ですね』と話しかけたら、外国人男性は少しだけ肩をすくめて『でも、さっきの人には……片言の方が効くかな、と思いまして』なんて言うので、思わず笑ってしまいました。本当に彼のお陰で嫌な気分が吹っ飛んだんですよね」と微笑む真奈美さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop

