水を大量に飲むことで血液中の塩分濃度が下がり、身体に深刻な影響をもたらすことがあります。「低ナトリウム血症」と「水中毒」の仕組みと症状について、日常生活の中で起こりうるリスクも含めて解説します。

監修医師:
田中 茂(医師)
専門は内科学・腎臓内科・血液透析・腹膜透析・臨床疫学・生物統計学
低ナトリウム血症——水の飲みすぎが引き起こす血液の異変
水を大量に飲むことで血液中の塩分濃度が下がる「低ナトリウム血症」は、過剰な水分補給が引き起こす代表的なリスクの一つです。その仕組みと影響について、正確に理解することが重要です。
ナトリウムが薄まると身体に何が起きるか
ナトリウム(Na)は血液や体液に含まれるミネラルで、細胞内外の水分バランスを保ち、神経や筋肉の正常な働きを支えています。血液中のナトリウム濃度は135〜145mEq/L程度に保たれており、この範囲を外れると身体に異常が生じます。
水を大量に短時間で飲むと、血液が薄まり、ナトリウム濃度が急激に低下します。軽度の場合は頭痛・吐き気・疲労感が現れ、中等度以上になると意識の混濁や痙攣(けいれん)、さらに重症化すると脳浮腫(脳への水分蓄積)を招くことがあります。特に激しい運動後に大量の水のみを補給した場合に起きやすく、スポーツ選手や屋外作業をされる方は注意が必要です。
日常生活での低ナトリウム血症のリスク
激しいスポーツをしていない一般の方でも、過度な水分補給が習慣化している場合は注意が求められます。特に、ダイエット中で食事量が少ない方、利尿薬を服用している方、高齢者など、もともとナトリウムのバランスが崩れやすい方は、比較的少ない水の飲みすぎでも低ナトリウム血症を起こしやすい傾向があります。
症状が軽度のうちは「疲れているだけ」「頭痛薬で対処」と自己判断しがちですが、放置すると重篤化するリスクがあります。特に意識の変化や手足のけいれんが現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが必要です。
水中毒の落とし穴——症状・原因・見逃されやすいケース
「水中毒(みずちゅうどく)」という言葉を聞いたことがある方は多くないかもしれません。水の過剰摂取によって引き起こされるこの状態は、日常的な場面でも起こりうるリスクです。
水中毒とはどのような状態か
水中毒とは、水分を過剰に摂取することで血液中のナトリウム濃度が異常に低下し、身体のさまざまな機能に障害が生じる状態のことです。医学的には「希釈性低ナトリウム血症」とも呼ばれます。腎臓が処理しきれない量の水が一気に体内に入ることで発症します。
症状は軽度から重度まで幅広く、軽症ではむかつき・頭痛・全身の倦怠感(けんたいかん)が見られ、中等症では混乱・判断力の低下・嘔吐などが起こります。重症例では意識消失・痙攣・呼吸困難に至ることもあり、場合によっては命に関わる事態になることもあります。水を「飲みすぎただけ」という認識が対応を遅らせる要因となることがあるため、注意が必要です。
水中毒が起きやすい具体的な場面
水中毒が起きやすい場面としては、以下のようなケースが知られています。
・マラソンや登山など長時間の運動中に、汗で失ったミネラルを補わずに水だけを大量補給した場合
・「健康のため」として意識的に1日3〜4リットル以上の水を毎日飲み続けた場合
・高温環境での作業中に大量発汗後、水のみを急速補給した場合
・精神科的な疾患(統合失調症など)を持つ方が、止められない飲水行動(多飲症)により過剰摂取に至った場合
特に運動時は電解質(ナトリウムやカリウムなど)を含んだスポーツドリンクや経口補水液の利用が推奨されており、水のみの大量補給はリスクを高める可能性があります。

