喉頭がんは発生する場所によって「声門部」「声門上部」「声門下部」の3つに分類され、それぞれ現れる症状が異なります。声門部では声のかすれが早期から出やすい一方、声門上部ではのどの違和感や飲み込みにくさが先行します。がんの種類や部位を知ることで、自身や身近な方の変化に気づくきっかけにもなります。各領域の特徴を丁寧に確認していきましょう。

監修医師:
吉田 沙絵子(医師)
旭川医科大学医学部医学科 卒業。旭川医科大学病院、北見赤十字病院、JCHO北海道病院、河北総合病院、東京北医療センターなどで勤務後、武蔵浦和耳鼻咽喉科院長となる。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医。
喉頭がんの主な初期症状:見逃しやすいサインを知る
喉頭がんの初期症状は、風邪やのどの使いすぎなど、日常的に経験する不調と似ているため、非常に見過ごされやすいという危険性をはらんでいます。「風邪が長引いているだけ」「最近、疲れ気味で声が出にくい」といった自己判断が、発見の遅れにつながることも少なくありません。しかし、がんによる症状には「持続性」という特徴があります。以下に挙げるサインが2〜3週間以上続く場合は、決して軽視せず、専門医の診察を受けることが重要です。
持続する声のかすれ(嗄声)
声のかすれ、医学的には嗄声(させい)と呼ばれる症状は、喉頭がん、特に声門部に発生したがんの最も代表的で重要な初期症状です。声帯に腫瘍ができると、その凹凸が声帯の正常で滑らかな振動を妨げます。これにより、声がガラガラになったり、かすれたり、あるいは普段より高い声や低い声になったりと、声質に変化が生じます。風邪や声の出しすぎによる声がれは、通常1〜2週間程度で自然に改善しますが、喉頭がんによる嗄声は、がんが無くならない限り持続し、徐々に悪化していく傾向があります。特に、喫煙歴の長い中高年の男性で、原因不明の声がれが2週間以上続く場合は、喉頭がんを疑うべき「最も重要な警戒シグナル」と言えます。このサインに気づけるかどうかが、早期発見の分かれ道となるのです。
のどの違和感・異物感
声門上部(声帯より上)にがんが発生した場合、初期には声のかすれよりも先に、「のどに何かが常に引っかかっているような感じ」「食べ物を飲み込みにくい、つかえる感じ」「のどの奥がイガイガ、ヒリヒリする」といった、漠然とした違和感や異物感が現れることがあります。これらの症状は、逆流性食道炎や咽喉頭アレルギーなど、他の良性の疾患でもよく見られるため、がんのサインとは気づかれにくいのが実情です。しかし、がんによる症状の場合、食事の際に特定の食べ物がしみたり、痛みが耳の奥に響く(放散痛)といった特徴を伴うこともあります。市販のうがい薬やのど飴を使っても改善しない、原因不明ののどの不快感が数週間以上続く場合は、自己判断で様子を見ずに、耳鼻咽喉科または頭頸部外科を受診し、喉頭内視鏡検査で直接のどの奥を観察してもらうことが極めて重要です。
初期症状として注意すべき追加のサイン
喉頭がんのサインは、代表的な声のかすれやのどの違和感だけにとどまりません。がんが少し進行すると、より深刻な症状が現れることがあります。これらのサインは、病状が進行している可能性を示唆するため、一つでも当てはまれば、直ちに医療機関を受診する必要があります。
慢性的なせきや血痰(けったん)
理由もなく長引く空せきや、たんを吐いた際に血が混じる「血痰」は、喉頭がんが進行した際に見られる重要なサインです。特に、声門下部(声帯より下)にがんが発生した場合、気管への刺激が強くなるため、せきが出やすくなります。腫瘍の表面がもろくなって出血すると、血液がたんに混じって排出されます。血痰の色は鮮やかな赤色から黒っぽいものまで様々で、量が少なくても注意が必要です。もちろん、血痰は気管支炎や肺炎、肺がんなど他の呼吸器疾患でも起こり得ますが、喉頭がんの可能性も念頭に置くべきです。特に、声のかすれやのどの痛みに加えて血痰が見られる場合は、がんが進行している可能性を考え、速やかに専門医の診察を受けることが強く推奨されます。
頸部(けいぶ)リンパ節の腫れ
喉頭がんが進行すると、がん細胞がリンパ管を通って頸部(首)のリンパ節に到達し、そこで増殖を始めます。これを「リンパ節転移」と呼びます。転移したリンパ節は、首の側面や前面に硬いしこりとして触れるようになります。このしこりは、通常、痛みを伴わないことが多く、弾力性がなく、指で押しても動きにくいのが特徴です。そのため、「最近太ったせいか、首が張っている」と感じる程度で見過ごされてしまうこともあります。風邪などでリンパ節が腫れる場合は、通常は痛みを伴い、数週間で自然に小さくなります。しかし、数週間以上消えない、あるいは徐々に大きくなる痛みのない首のしこりは、がんの転移を強く疑うべきサインです。頸部のしこりに気づいた場合は、耳鼻咽喉科や頭頸部外科で触診に加え、超音波(エコー)検査や細胞診(針を刺して細胞を採取する検査)などの精密検査を受ける必要があります。

