「更新センターで言われたのが『一体にしてもいいけど、1枚失くしたら運転できなくなるし、再発行に時間かかるし、レンタカーとか借りられなくなる可能性あるから、今回は待った方がいい』」——。マイナンバーカードと運転免許証を一体化した「マイナ免許証」をめぐり、更新センターや警察署の窓口で担当者から一体化を思いとどまらせるような説明を受けたという体験談がXに相次いで投稿されている。2025年3月24日の運用開始から1年以上が経った今も、制度を推進する側と現場運用の間にある溝が、利用者の口から次々と紹介されている。
窓口で相次ぐ慎重なアドバイス
「運転免許更新に行った夫。手続き窓口に並ぶ時、職員がみんなに注意を促していた。『紙の免許証を作っておいてください。マイナンバーカード免許証だけにすると、あとで紛失・再発行する時に待たされるし面倒です』『紙の免許証の方が安全で確実です』。かくして紙の免許証発行窓口に長い列が…」
「警察署で1本化しようとしたら、『本当にいいんですか?不便になりますよ?大丈夫ですか?』と警察官に何度も念押し確認されて、『やっぱりやめときます』って1本化しませんでした」
「私も免許更新センターで同じ質問する人に出会った。係の人も半笑いで『お勧めしない』って」
「私も一体にする希望で更新に行きましたが、現地の係員さんから説明受けて従来の免許にしました。同じような方が複数居られました。警察も実のところ頭を抱えているのかもですね」
制度を運用する現場の担当者自身が「一体化を慎重に考えた方がいい」と案内しているという構図は、行政の制度設計と実務の乖離を物語る実例だ。
紛失したら何が起きるか
警察庁の公式ページで、それら体験談の懸念を裏付けている。マイナ免許証のみを保有している人が紛失した状態で従来免許証を取得する再交付手続きは、平日の運転免許試験場のみで対応している。運転免許更新センターや指定警察署では受け付けていない。
「あと紛失時の再発行の速さの違いが大きいんですよね。紙の免許証→免許センターで即日発行。マイナンバー免許証→役場で1週間〜10日以上」
「マイナンバーカードの再発行には本人確認書類が必要だが、免許証をマイナ一体化していると詰む」
セキュリティーソフトウェアなどを手がけるノートンが2025年2〜3月に1,200人を対象に実施した調査では、運転免許証を紛失した経験があると回答した人は17%に上った。「1枚に集約」された状態での紛失が、どれだけの生活上のリスクを伴うかは、この数字が示している。
なお、マイナ免許証のみを保有する人が至急で運転が必要な場合は、運転免許試験場で従来免許証への変更手続きが可能だが、それも「平日の試験場」という条件つきだ。
カード表面に免許情報が表示されない
また、利用者が見落としがちな点として、デジタル庁や警察庁は公式ページで「マイナンバーカードの券面には、免許情報(免許種別、有効期間など)が表記されない」と明記している。免許情報の確認は、マイナポータルへのログインか「マイナ免許証読み取りアプリ」の使用が必要だ。
また、警察庁のページには「スマートフォンのマイナンバーカードは、運転免許証として使用できません」と明記している。iPhoneやAndroidでマイナカードのIDをスマホに追加できるようになっていても、実物カードの携帯が必要となる。
大手レンタカーも「アプリ必須」で告知
「一体にしてもいいけど…レンタカーとか借りられなくなる可能性があるから」という現場担当者の声が示す問題は、まさにこのポイントに尽きる。
トヨタレンタカー、ニッポンレンタカー、オリックスレンタカーなど対応している大手各社は、公式サイト上でマイナ免許証のみを持つ利用者に対し、「『マイナ免許証読み取りアプリ』をインストールしたスマートフォンを持参し、店頭でご自身が免許情報を呼び出してください」と案内している。スタッフが読み取り操作を代行する仕組みではなく、アプリの準備とその操作は利用者側の責任となる。また対応状況は各社・各時期で異なっており、「マイナ免許証だけで借りられる」と思い込んで店頭へ向かうのは、現状では危険な判断となりうる。
アプリのインストールが事実上の前提条件となっているにもかかわらず、こうした各社の案内を利用者が事前に把握しているケースは多くない。「一本化推奨」の制度PRと、各社が静かに公式サイトに掲載している注意書きとの間に、大きな認知の落差が生まれている。
それでも7割超が「2枚持ち」を選ぶ
運用から1年余りでマイナ免許証の保有者は約315万人(全体の約3.8%、2026年4月末時点)まで拡大した。しかし、そのうち約72%が従来の免許証とマイナ免許証の「2枚持ち」を選んでいる。
「健康保険証はマイナ保険証にしたけど、運転免許証とマイナンバーカードは別にしています。運転免許証とマイナンバーカードを統合して紛失したら身分を証明するものが何も無くなるから」
「保険証だけマイナンバーに統合してたワイ、運転免許証のマイナンバーへの統合は注視を決める」
「更新会場での体感として8割免許証、1.5割マイナ免許証、0.5割両方という感じでした」
ノートンの調査では、「マイナ免許証への移行は義務でない」を正答した人は85.5%と、制度の概要はある程度理解されているが、具体的な運用や紛失時のリスク、さらにレンタカー利用時のアプリ要件まで把握しているかどうかは別の問題だ。
賢く使うか、一本化を選ぶか
「免許証のみと、免許証•マイナ2枚持ちの差額は『たったの100円』なので、作った方が得」
「持ち歩くのはマイナカードのみ。別発行した免許証は家で保管」
「今は合法的に免許証2枚持てるので仕事用とプライベート用とうまく活用しています」
こうした声が示すように、差額100円の2枚持ちを積極的に活用する利用者も少なくない。一方で、「マイナンバーカードに運転免許証と健康保険証を統合したワイ、本人確認書類2種類出してと言われて詰んでしまう」という体験談が上がるように、一本化の構造的な問題を指摘する声も根強い。
「一本化した結果、本人確認書類が一本しかなくなる罠ですね 便利にするはずの統合で、『2種類出してください』に詰むのは本末転倒すぎます。デジタル化するなら現場運用も合わせてほしいです」
「なんちゅう設計だ……まるでドリフのコントじゃん。マイナンバーカードを身分証明書にするためにあれこれ統合して、他の身分証明書なくしたのに、更に必要ってどうなってるの?」
「そやけど、だいたい同じ財布に入ってるから、別の意味無いんだよね。無くすときは同時」という指摘も上がった。リスク分散としての2枚持ちも、同じ財布で管理すれば意味が薄れる。「別発行した免許証は家で保管」という選択肢と組み合わせてこそ、2枚持ちのリスク軽減効果が生じることとなる。
マイナ免許証が本格的に普及するには、民間サービスでのさらなる対応拡大、スマートフォンでの利用可能化、そして再交付手続の窓口拡充といった課題が残っている。「一体化推奨」を前面に出しながら、現場では「お勧めしない」とつぶやかざるを得ない担当者がいるという現実は、制度がまだまだ過渡期にあることを物語っている。

