喉頭がんの治療は、手術・放射線治療・化学療法を病期に応じて組み合わせて行います。早期であれば発声機能を温存しながら根治を目指せる可能性があり、進行例でも化学放射線療法など喉頭を残す治療の選択肢があります。近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も活用されるようになりました。患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療方針を、担当医と相談しながら検討することが大切です。

監修医師:
吉田 沙絵子(医師)
旭川医科大学医学部医学科 卒業。旭川医科大学病院、北見赤十字病院、JCHO北海道病院、河北総合病院、東京北医療センターなどで勤務後、武蔵浦和耳鼻咽喉科院長となる。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医。
喉頭がんの治療後の見通し(予後)と生存率について
「がん」と診断されると、「もう治らないのではないか」という大きな不安に襲われるのは当然のことです。しかし、喉頭がんは、他のがんと比較しても、特に早期に発見されれば根治の可能性が非常に高い疾患です。予後(治療後の経過の見通し)は、がんの発生部位や病期(ステージ)によって大きく異なります。正確な情報に基づいて病状を冷静に理解することが、前向きに治療に取り組むための第一歩となります。
病期別の治療成績と5年生存率の目安
がん治療の効果を示す指標の一つに「5年相対生存率」があります。これは、がんと診断された人が5年後に生存している割合を、同じ性別や年齢の日本人全体の生存率と比較した数値です。国立がん研究センターのデータによると、喉頭がん全体の5年相対生存率は約80%と良好です。これを病期別に見ると、早期であるステージIでは95%以上、ステージIIでも80%前後と非常に高い治癒率を誇ります。これは、早期の段階で声のかすれという自覚症状が出やすい声門がんが多いことと、効果的な治療法が確立されていることによります。しかし、発見が遅れ、リンパ節転移などを伴うステージIIIでは約65%、遠隔転移のあるステージIVでは約45%と、進行するにつれて生存率は低下します。重要なのは、これらの数字はあくまで多くの患者さんのデータの平均値であり、個々の患者さんの未来を決定づけるものではないということです。数字に一喜一憂するのではなく、早期発見・早期治療の重要性を再認識し、最善の治療を受けるための行動を起こすことが何よりも大切です。
再発・転移のリスクと経過観察の重要性
喉頭がんの治療が成功した後も、残念ながら再発や転移のリスクはゼロにはなりません。再発とは、治療によって目に見えなくなったがんが、再び同じ場所(局所再発)や頸部リンパ節(領域再発)に出現することです。転移とは、がん細胞が血液やリンパの流れに乗って、肺や肝臓、骨などの離れた臓器で増殖することです。再発のリスクは治療後5年以内、特に最初の2〜3年に高いとされています。そのため、治療後も定期的な通院による経過観察が不可欠です。通常、治療後2年間は1〜2ヶ月に1回、3〜5年目は3〜6ヶ月に1回程度の頻度で、内視鏡検査や画像検査(CTなど)を行い、再発の兆候がないかを厳重にチェックします。万が一、再発が発見された場合でも、早期であれば手術や放射線治療、化学療法などの追加治療(救済治療)によって、再び根治を目指せる可能性があります。経過観察中に声のかすれの再発やのどの痛み、首のしこりなど、気になる症状が現れた場合は、次の予約日を待たずに速やかに担当医に連絡することが極めて重要です。
喉頭がんの治療後の生活:リハビリと生活の質の維持
喉頭がんの治療は、がんを取り除いて終わりではありません。治療によって影響を受けた発声機能や嚥下(えんげ)機能を回復させ、治療前と変わらない、あるいはそれに近い生活の質(QOL: Quality of Life)をいかにして取り戻すかが、非常に重要な課題となります。専門家によるリハビリテーションや日常生活の工夫が、その後の人生を大きく左右します。
発声リハビリと代用音声の選択肢
喉頭全摘術を受けて声帯を失った場合でも、コミュニケーションを諦める必要は全くありません。「代用音声」と呼ばれる方法を習得することで、再び会話を楽しむことができます。主な選択肢は3つです。
1. 食道発声:練習してゲップを出す要領で空気を食道に取り込み、その空気を逆流させて食道の入り口を振動させて声を出す方法です。習得には訓練が必要ですが、特別な器具が不要で、自然な音質に近い声が出せることが利点です。
2. 電気式人工喉頭(EL):喉や頬に器具を当て、その振動を口腔内に響かせて言葉を作る方法です。比較的習得が容易で、すぐに会話が可能になりますが、機械的な声質になるという特徴があります。また、手で押しつけるので、片手がふさがってしまいます。
3. 気管食道シャント発声:手術で気管と食道の間に「シャント」という小さな穴を開け、そこに「ボイスプロステーシス」という逆流防止弁付きの器具を留置する方法です。首の気管孔を指で塞いで息を吐くと、空気がシャントを通って食道に流れ込み、声を出すことができます。比較的自然な声量と音質が得られやすいですが、定期的な器具の交換と管理が必要です。
どの方法が最適かは、患者さんの状態やライフスタイルによって異なります。言語聴覚士(げんごちょうかくし)などの専門家と相談しながら、自分に合った方法を見つけ、リハビリテーションを進めていくことが大切です。
嚥下障害(えんげしょうがい)と栄養管理
手術や放射線治療の影響で、食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなる「嚥下障害」は、治療後のQOLに大きく影響する合併症です。飲み込む力が弱まったり、喉頭の感覚が鈍くなったりすることで、食べ物が気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」を起こしやすくなります。誤嚥は、窒息や誤嚥性肺炎の原因となり、命に関わることもあります。嚥下障害に対しては、言語聴覚士による専門的なリハビリテーションが重要です。飲み込みに関わる筋肉を鍛える訓練や、安全な食事の姿勢、食べやすい食事形態(とろみ食、ゼリー食、きざみ食など)の指導が行われます。また、治療中は口の痛みや味覚の変化で食事が十分に摂れなくなりがちです。栄養状態の悪化は、体力や免疫力の低下を招き、治療の継続や回復の妨げになります。管理栄養士と連携し、高カロリーの栄養補助食品を活用するなど、個々の状態に合わせた栄養管理を行い、治療を乗り越えるための体力を維持することが求められます。

