無名時代の“正装”はアメ横で買った「白い網タンクトップ」
――唐沢さんご自身についても聞かせてください。東映アクションクラブ出身でスーツアクターとしても活動されていましたが、当時の自分が今の姿を見たらどう思うでしょうか。唐沢:「俳優になれたんだな」って驚くと思いますよ。当時の自分の最終目標は、街で誰かとすれ違った時に「あれ、あの人俳優じゃない? 名前はわからないけど」と思われることでした。そこまでできれば、もう自分のミッションは終わりだと本気で思っていました。
――それが最終目標だったんですか!?「主演スターになるぞ」ではなく?
唐沢:当時の俺なんて、夏場はほとんど裸同然の格好だったんですよ。アメ横で買った白い網のタンクトップ1枚とジーンズで、いっつも歩いていた。
――それは普段着ですか? お気に入りだったから?
唐沢:普段着です。洗ったらすぐに乾くし。裸じゃ困るけど、「暑いからそれでいいか」みたいな感じで。20歳くらいのときにショーパブでバイトしていて、あるお客さんに「あなた、こんなところにいる人じゃないから頑張らないとダメよ」とTBSの偉い人を紹介してもらったんです。その人に会いに行った時も、そのタンクトップでした(笑)。お金もないし、それしかなかったから。
――同じタンクトップを何枚か持っていたのですか?
唐沢:1枚だよ。それを洗っては着て、洗っては着て。アクションクラブのころからずっと着ていました。だからまあ、結構お気に入りだったってことだよね(笑)。
売れたら周囲が一変した。でも、変わった側も辛かったと思うよ
――スター俳優云々は別にしても、「役者として活躍できるようになってやるぞ!」という気持ちは持っていたわけですよね?唐沢:もちろん、オーディションにもしょっちゅう行っていました。薬師丸ひろ子ちゃんの相手役とか。「あの人、俳優さんじゃない?」っていう最終目標のためにね。せいぜいそこまでは頑張りたいなと思って。
――その目標はとうに超えているなと感じられた瞬間は。
唐沢:たとえば『白い巨塔』をやったときに、みんなが打ち上げで盛り上がる中、俺は先に「明日仕事が早いので」って帰ったんです。実は、「これだけ当たってしまうと、次が大変だな」と考えていたんですよ。「これを超える作品に出合うことは難しいだろうな。もしかしたら一生ないかもしれない」と。そんなことを考えていたから盛り上がれなくて。
――やりきった感があったからでしょうか。
唐沢:ヒット作品って、時代とのマッチングがあるんだよね。だからうまく時代と合うものに巡り合えるかということもあって。1本あれば十分だとは思うんだけど、あの時はまだ40代だったし、すごく考えましたね。ただ最近で言うとWOWOWでやった『フィクサー』のときも同じ感情になりました。「こんなに面白い作品をやって、次が大変だ」と。一瞬、本当に絶望的になるわけ。
それと昔のことでよく覚えているのは、周囲が変わったと感じたこと。昔は、持って行った履歴書を目の前でゴミ箱に捨てられたりしていました。それが、売れたら途端に態度が変わる。
――正直「怖いな」と感じることもありましたか?
唐沢:思ったよ。でも、そうやって態度が変わる人たちも雇われているんだから変わらざるを得ないんだよ、嫌でも。昨日まで俺の履歴書を捨てていたやつが、今日は「唐沢さん、いらっしゃいませ!」って言わなきゃいけない。それも辛いものだと思うよ。

