私は都内のIT企業で働く、ごく普通の会社員です。
一方、恵美は昔からおっとりしていて、少し依存体質なところがありました。32歳にもなって感情を抑えられないサトルに対しても、「私がいなきゃダメなの」なんて健気なことを言っていますが、客観的に見ればそれはただの暴力(DV)です。
翌朝、恵美がボロボロの姿で私のマンションに逃げ込んできました。 頬は腫れ上がり、腕には青あざ。
「恵美、もう限界だよ。警察も来たんでしょ? 今回こそ別れなさい」
「……でも、警察が来たときサトルくん、泣いて謝ってくれたんだよ。私が警察なんて呼んじゃったから、彼はパニックになっただけで。本当は優しい人なの」
「優しい人は、愛する人を殴らないの!」
私の叫びも、今の恵美には届きません。彼女は虚空を見つめたまま、まるで自分を納得させるように呟きました。
「私がもっと、彼の気持ちを察してあげられたら……。私が暴れたから、彼も止めるために手が出ちゃっただけなの。全部、私が悪いの」
自分の妹が、目の前で壊れていく。 私はただ、彼女の冷え切った手を握りしめることしかできませんでした。
明らかに「DV被害」だと気づいていても…
姉の目から見て、妹がDV被害に苦しんでいるのは明らかです。しかし、妹は「自分が悪い」と繰り返し、彼氏の肩を持つばかり。姉として、何もできずに歯がゆさが募ります…。
ですが、じっとしているわけにはいきません。妹のために、姉・美幸は動き出します。DVが原因で離婚した友人・裕子に話を聞きます。すると、DV加害者には「ハネムーン期」というものがあり、過剰なほど優しい時期が存在するそうです。被害者は、これがパートナーの本心だと錯覚し、共依存の沼へと落ちてしまうそうです…。
姉として、できることは?
「美幸、DVは病気じゃない。選択なんだよ。彼は恵美さんなら殴っても許されると甘えているだけ。恵美さん自身が『これは異常だ』と気づかない限り、第三者がいくら引き離しても、磁石みたいにまたくっついちゃうよ」
「じゃあ、私は見てるしかないの?」
「……まずは、彼女の心のケアからかな。別れろって言うんじゃなくて、彼女が抱えている『生きづらさ』に焦点を当てるの。それと、もし次があったら、絶対に証拠を記録させて」
裕子のアドバイスを受け、私は一つの決心をしました。無理に引き離すのではなく、恵美が自分の足で泥沼から抜け出せるよう、外堀から埋めていくしかないのだと。
DVは、本人が異常さに気づけないと抜け出すことができません。そこで美幸は、まずは妹にカウンセリングを受けさせることに重点を置きます。
ある日、「別れなくてもいい。だから、お姉ちゃんの知り合いの先生と話をしてみよう」と、カウンセラーの前に座らせます。すると、妹の目からは涙がこぼれ、今までつらかった気持ちがようやく吐き出されたのです。

